表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/203

無法者はさもありなん⑨

 ゆら。ゆら。


 魔物の動きは不規則で予測しづらかった。


 そこに生まれたのは、人型ではあるが明らかに人ではないなにか。


 不死者に属する魔物、レイスである。


 纏った黒いボロ切れは風もないのに揺れていて、深く被ったフードの内側、顔があるはずの場所には深い闇と紅く瞬く双眸があるだけ。


 足はあるのに地面には着いておらず、かといって影すら落とさない。


 その姿はときに『死を招く災い』とも囁かれ、多くの人はこの魔物を不吉の象徴と位置付けて怖れていた。


 まさにレイスに相応しい評価だろう。


 レイスの振るう武器はなんの躊躇いもなく、ただ冒険者たちの首を刈るために存在していたからだ。


 戦闘は回避したいが、あのレイスも音を聞きつければ塔へと向かうに違いない。


 それを待つべきかどうか、クロートには判断が難しかった。


 もし彼らが先を急いだとして、レイスが後ろから音もなく忍び寄ってくる可能性を思うと背筋が冷える。かといって先に行かせるにしても、結局は塔で鉢合わせることになるだろう。


 そのときレリルがクロートの後ろで小さく呻くのが聞こえ、彼は少し体を引いた。


 ――最初に【シュテルンホルン迷宮】の話を聞いたときにも感じたけど、レリルは不死者に属する魔物が苦手なのかもしれない。


 クロートは身を固くしているレリルをちらと確認し、再度考えた。


 ――そもそも『薔薇の女王』ってレイスの上位種とされるリッチだよな。もし戦闘になったとして、レリル……戦えるのか?


 彼が不安に思ったとき、塔から再度音と光が発せられた。


 ……ズドオォン!


 クロートはレイスがゆらりとこちらに体を向ける瞬間、咄嗟にレリルの腕を引いて瓦礫の隙間に身を隠すことを選んだ――いや、そうするしかなかったのだ。


 狭い空間にふたりで体を丸め、息を殺す。


 どくどくと心臓の音が聞こえ、苔のようなカビのような臭いが鼻を突く。


 クロートはいつ戦闘になってもいいよう剣の柄を握っているが、その手のひらはじっとりと汗ばんでいた。


 やがて、すーっと。


 音も立てずにレイスが細い道から現れ、塔のほうへと体の向きを変える。


 ――早く行け、こっち見るなよ……。


 クロートがそう思った瞬間、彼の後ろでレリルが「ふぐぅっ」と変な声を上げた。


 ――おい!


 レイスがその声に反応し、揺らめきながらこちらを振り返るが――先に。


「収束ッ!」


 狭い場所から躍り出るレリルの手にマナが光となって集まり、剣と盾となった。


 しかし、彼女が『斬りかかった』のは、クロートが見ていたレイスではない。


『グァウゥ……ッ』


 もう一体――レイスではなく獣型の魔物が、まさにふたりへと飛び掛かろうとしていたのである!


 レリルの一撃が獣型――オオカミのように見える――の魔物を捉え、両断するかに見えた。


 しかし致命傷には至らない。


 魔物は直撃を受けたにも関わらず、地面に転がってすぐに体勢を立て直し、涎を撒き散らしながら低くグルルと唸る。


 その姿は腐った肉塊のようであり、強烈な腐臭にクロートは顔を歪めた。


 不死者に属する魔物の一種、グールバイトである。


 いまのいままで腐臭に気付かなかったとは考えにくく、リスポーンしたのだろう。


 もしかしたらここで戦闘が起き、そのときに屠られた魔物が、ほぼ同時にリスポーンしたのかもしれない。


 そうすると、ほかの個体リスポーンする可能性もある。


 ――こうなった以上、戦うしかない!


 クロートは意を決して剣を抜き放ち、こちらへと標的を定めたレイスの前に飛び出す。


「レリル! そっちはいけるか⁉」


「大丈夫――!」


 彼女は不死者に属する魔物でも獣型なら戦えるのだろう。


 短く確認し、クロートはまずレイスを片付けることに集中した。


 クロートより頭ひとつ分は大きく、両手で持つのは噂に違わぬ切れ味を思わせる巨大な鎌。


 血のような双眸がちかちかと瞬く間に、クロートは一気に間合いを詰めた。


「――ッ!」


 左から右へと振り抜いた長剣は滑るように身を引いたレイスのローブを掠め、黒い端切れが暗闇を舞う。


 同時に、レイスがクロートの上から鎌を振り下ろした。


 ――甘いっ!


 心のなかで叫んで、クロートはさらに前へと踏み込む。


 鎌の柄の部分へと、今度は右下から剣を振り上げて対抗。


 ギィンッ


 鈍い音とともにクロートの腕にじんと痺れが走るが、それも予測済みだ。


 クロートは瞬時に腕を下げ、硬直したレイスを一刀両断、下から振り上げる剣で斬り裂いた。


『オオオォ』


 悍ましい叫び声に体が震える。


 それでも、クロートは攻撃を緩めなかった。


 二撃、三撃。


 自分の敏捷力を活かし、彼は何度も斬り掛かる。


 そこで再度レイスの鎌が振り下ろされ、クロートもまた、迷わずレイスへと踏み込んだ。


 柄の部分が長い鎌は、肉迫されることに弱い。


 クロートはまだ【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】として駆け出しだったが、それでもガルムと培ってきた経験の量は、同年代と比べれば遥かに多く濃いものだった。


 そして、武器を振るう相手へとさらに踏み込む行為も、その経験があればこそ。


 ――これで……決めるッ!


 クロートはレイスの左肩から右の腰までをばっさりと斬り付け、一気にマナへと還した。



令和元年ですね!

本日は19時にも1話更新します。


なんとかダークは夜に持ち越しました。


引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ