無法者はさもありなん⑦
クランベルから説明を受けたその日のうちに旅のための準備――食糧や薬、水などの補充だ――を済ませ、クロートとレリルは【シュテルンホルン迷宮】へと出発した。
ハイアルムから預かった書状が懐にちゃんとあることも確認して、彼らは馬車を拾い、王都を南下する。
ガルムと貯めてきた資金――ガルムはそれなりの金額をクロートに渡していた――があるので、いまのところ生活に窮することはない。
『ノーティティア』本部で仕事をしていれば、王都にいる間の部屋を貸してもらえるのも助けになっていた。
そのため、クロートはレイドボスの『リザードラ変異種』と『イミティオ』の核を手元に残している。
珍しい色の核で大きさもあるため、きっとなにかの役に立つだろう。
そもそも人々に魔物の核が求められるのは、生活の様々な場所で使われているからだった。
言うなれば人工のマナ術。
マナの塊である核……それを燃料とした道具を使って、火を起こしたり、湯を沸かしたり、重たいものを動かしたり……そういったことができるのである。
そのほか、核は治療薬――クロートは最近知ったが――や、鉱山を掘り進むための爆薬としても使われていた。
生活から切り離すには、重要な生命線を担いすぎているだろう。
迷宮大国と呼ばれるルディア王国がここまで大きくなったのも、迷宮と……そこから得られる豊富な核に依るのであった。
……今日はもう暗くなるため、巨大な王都の端まで移動するくらいの時間しか残っていない。
途中、ふたりは遺物を家族に届けることを生業とする組織へと足を運んで、件の……魔物の核を燃料にして光る道具――ルクスというらしい――を渡した。
持っていても仕方ないし、持ち主は無法者と関わりがあるらしいと聞いて傍に置いておくのも気分が悪いからだ。
ちなみにこの組織は、家族からのお礼や家族が処分を頼んだ遺物を売って資金を得ている。
高級な道具も綺麗に手入れされたうえで定価より安く提供され、その道具の過去を気にしないのであればかなり重宝されるはず。
しかし、クロートもレリルも手を出す気にはなれない部類であった。
商品を見ないかと勧められたが丁重にお断りして、再び馬車に乗ることを選んだ。
「――今夜はどうしよっか。宿にする? それとも王都を抜けて平原まで出ちゃう?」
走り出した馬車が安定した速度になってからレリルがそう言ったので、クロートは宿にしようと告げた。
自分たちは王都に戻ったばかり。しっかりとした休みは取っていなかったのだ。
ぽつぽつと明かりの灯り始めた街並みを眺めながら、クロートは両手を高く上げ、ぐーっと伸びをする。
「明日からまた冒険だしなー。今日くらいはちゃんとしたベッドで寝とこう」
「それもそっか。温かいごはんも堪能しとかないとね!」
レリルは嬉しそうにぽんと手を合わせた。
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そうして、二人が【シュテルンホルン迷宮】にたどり着いたのはシクルス――六の月の終わりだった。
セブルス――七の月が訪れるまではあと三日。
できればさっさとガルムを見つけたい。
クロートは眼前に待つ迷宮化した都市を眺める。
平原の真ん中に無造作に置かれたようなその場所は、クロートの背よりは高い崩れかけた灰色の壁でぐるりと囲まれていた。
壁にはところどころに蔦が這い、濃い緑の葉もあれば茶色く枯れた葉も見える。
そして壁の向こうには家屋――これも崩れかけている――が並んでいて、さらにその向こう、突き立つ塔が確認できた。
まだ日は高く、いまはなんとも思わないが、夜闇のなかに浮かんだ灯りひとつない【シュテルンホルン迷宮】は、さぞや不気味だろうとクロートは思った。
そしてなにより【シュテルンホルン迷宮】に踏み入れば、そこは魔物と無法者の縄張りだ。
建物の多くは朽ちて中に入るのは危険だが、寝泊まり程度なら可能な場所もあるらしい。
つまり、壁のすぐ向こうに見張りがいてもおかしくはないのだ。
気を付けねばならない。
クロートとレリルは一旦迷宮から離れ、手頃な岩に身を隠すようにして地図を広げた。
平原には草が疎らに群生し、剥き出しの岩や土がところどころに散見される。
地面から生えたような形の大きな岩もあるので、こうしていれば気付かれることはまずないだろう。
迷宮のほうから吹いてくる風は心なしかひやりと冷たいが、クロートは気のせいだと思うことにした。
「……まだ『アルテミ』は来てないのかな」
法の下で人狩りを行う組織の名前を出したクロートに、レリルが唸る。
「んん……どうかな。私たちより先に中に入ってるって可能性もあるよね」
「それもそっか……。なあレリル。今回は、まずは隠密だからな? どこの誰がどんなに危険でも、勝手に飛び出すなよ?」
対人戦の可能性があるとクランベルは言っていた。
それを見たとき、真っ先に止めに入るかもしれないレリルにクロートが釘を刺すが、当の彼女は首を竦めて眉をハの字にしてしまった。
「それは……その。なんていうか、どうしても体が反応しちゃって……」
頼りない返事に、クロートが肩を落とす。
「んー。……じゃあこうしよう。せめて、そいつが敵なのか味方なのかわかってから動くこと。それならなんとかなるか?」
「そ、それなら、たぶん……」
頼りない返事をさらに重ねてから、レリルは誤魔化すようにぱたぱたと手を振った。
「とにかく、ガルムさんを見つけるのが先決だよね!」
26日分です!
すごい遅くなっちゃいました、すみません!
皆様よろしくお願いしますー!




