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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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202/203

マナを循環させし者②

 ハイアルムは手を突き出し、集まるマナを手繰り寄せる。思い描くのは強く優しい娘へと育った自慢の愛娘。


 クロートたちが諦めていないことは、彼らの表情からすぐにわかった。


 だからこそハイアルムも諦めないと誓う。


 レリルの内包していたマナは彼女の想像以上で、それだけで世界マナリムがしばらく永らえるであろうものだ。


 しかし……いまはもうそのマナに頼らずともよい。


 ――妾は……やりぬかねばならなかった――。けれど、もうよいのだ。もう犠牲は必要ない。『マナを循環させし者』は誕生した……! 世界マナリムは――救われる!


 ハイアルムは激しく渦巻くマナに冴えた月色の髪を靡かせて、眉尻をキッと上げると大声で怒鳴った。


「まだ足りぬ! 集めよ! お主らの力はそんなものではなかろう!」


 その声にクロートとレザが歯を食い縛る。


 彼らはマナのなかから確実に『彼女』を選び出し、集め、己の思いを載せた。


 やがてマナは収束し始め……光の粒がどんどんつらなって混ざり合う。


「ううぅっ!」


 クロートは歯を食い縛ったまま呻き声をもらし、蜂蜜色の核が煌めいて少しずつ小さくなるのを必死で支えた。


 蜂蜜色の髪。


 新芽のような黄みがかった翠色の瞳。


 綻んだ花のような笑顔や――ともに流した涙。



 ――覚えてる。全部、覚えてる――! この『匂い』も――!



 ところが、突如クロートの足が震え出して視界が霞む。



 ……核のマナを食べ、マナを循環させるための。


 ……レザを爆風から守るための。


 ……ガルムの体を世界マナリムに還すための。


 ……そして、フェイムを屠るための。



 すでにこの日、クロートは四個の『宝箱』を設置していた。


 膨大なマナを収束させるため、彼の体には相当な負荷が掛かっているのだ。


「もう少し……もう少しだ! 踏ん張るのだクロート!」


 異変に気付いたハイアルムが声を上げる。


「……ぐうぅッ!」


 ――絶対に倒れない! 諦めない! 俺は――!


 そのとき、支えていた核がマナの光となって弾け飛んだ。


 ぶわっと舞ったそのマナも、余すところなく集めなければならない。


 それなのにぐらりと体が傾いで――クロートは息を呑む。



「……あ、ぐっ!」



 その瞬間、クロートの背中をレザが右腕でぎゅっと押さえ、首根っこを力強い手が掴んだ。




「俺が支えるッ! もう少しだよ『クロート』ッ!」


 ふわふわした金の髪と黒いバンダナが靡く。


「耐えろ。ガルムはこの程度、なんとでもしてみせたぞ」


 真っ黒な鎧に身を包んだ色黒の大男が呆れたように鼻を鳴らす。


 ――レザ、モウリス……!


 クロートはふたりのお陰で踏み留まり、はっ、と笑った。


 ――そうだ、あと少し……あと少しなんだッ!




「使えるものは使う、働かざる者食うべからずッ! 頼らせてくれ、レザ、モウリスッ!」




 それは……そう。父親であるガルムが、ずっとクロートに言い聞かせてきた言葉。


 言うなれば、クロートの家訓のようなもの。


 渦巻くマナが――優しい花のような香りが――ひとつに収束し大きな光となる。


「――これで……最後だッ!」


 クロートは咆えるように告げ、渾身の力で腕を振り下ろした。



「受け取れハイアルム――ッ!」



 瞬間。


 視界が白く染まり、クロートは今度こそ全身の力を持っていかれて崩れ落ちる。


 けれど、その手は。



 柔らかい手を――しっかりと握り締めていた。



******



 優しい風が頬を撫でていく。


 目を開ければ、見慣れた部屋の天井がクロートを見下ろしていた。


 ベッドの仕切りになっているカーテンからは暖かな光が透けている。


 ――俺たちがよく借りる部屋だ……。


 体が酷く怠かった。クロートは左手で額を押さえると、ぼんやりと視線を巡らせて――。


「……ッ!」


 飛び起きる。


「え、え⁉ なんで、俺ッ!」


 慌ててカーテンを引くと、窓から差し込む陽の光が彼の視界を白く染めた。


 思わず目を眇め……クロートはその光のなかに立つ『彼女』に気付く。


「……あ……」


 蜂蜜色の髪が、風にそよいでいた。


 開け放たれた窓から外を見ていた彼女は、ベッドから飛び出したクロートと目を合わせると困ったような顔をする。


「……レリル……」


 装備こそ纏ってはいないが……それは確かにレリルだった。


「……」


 けれど、レリルはなにも応えない。


 それどころか困惑を隠しきれていないように見える。


 クロートは眉をひそめ、彼女に手を伸ばした。


「レリル……?」


「あ……えぇと……」


 レリルは我に返ると戸惑ったように瞳を泳がせて一歩『下がった』。


「ごめんなさい……なにも覚えていなくて、私……」


「――!」


 クロートは言葉をなくし、伸ばした手をゆるゆると下ろす。


 ――覚えてない? なにもって……どういう意味……。


 ……そこに。


「あーっ! 起きたのかー?」


 底抜けに明るい声が響く。


 クロートはびくりと肩を振るわせ、丁度部屋に戻ってきたのであろうレザを見た。


「……レザ……」


「……あー」


 レザはクロートの様子にすべてを悟ったようだ。


 黙ったままそばまで来ると、ぽんとクロートの肩を叩く。


「女の子、悪いけどちょっと部屋で待っててー! 俺、こいつお風呂連れていかないとー」


「あ、う、うん! いってらっしゃい……レザ――君」


「……ん」


 レザは少しだけ切なそうに返事をすると、クロートを引っ張る。


 ……クロートはどうしていいかわからずに、レザに引かれるがまま……部屋を出た。


******



あと一話とします。

最後までお付き合いください。


最終話は本日18時更新にて。


少しでも思うところがございましたら、評価いただけますと幸いです!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの展開? 最終話楽しみにしています。
2020/02/02 17:30 退会済み
管理
[一言] 最終話1つ前の、おちゃめ? 「少しでも思うところがございましたら、評価い田だけますと幸いです!」 ……奏さん、好きですー^_^
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