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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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172/203

邪悪なものありけり①

******


 翌日。食事を済ませたクロートたちはハイアルムの待つ部屋へと向かった。


 すると、謁見の間へと続く扉の前にふたりの人影がある。


「……あ」


 最初に声を上げたのはレリルだ。


 クロートもすぐに気が付いて、唇を強く結んだ。


「……」


 ひとりは色黒の逞しい体躯に赤みがかった茶の短髪。纏う鎧は黒いブレストプレートの大男。


 ひとりは内巻きにされた肩ほどまでの派手なピンク髪と、それを割って斜め上ににょきりと伸びた長い耳。鎧さえもピンク色の女性。


「モウリス、クランベル」


 クロートは顔を上げ、背筋を伸ばし、凛とした声で彼らを呼ぶ。


 腕を組んで目を閉じていたモウリスがゆるりと瞼を上げ、その灰色の双眸を――刺すような鋭さで――クロートに向けた。


 対するクランベルは難しい顔で――それでもどこかに哀愁を滲ませ――大きな紅い目をゆっくりと瞬かせる。


 すでにガルムのことを知っているのが、ふたりの様子からありありと見て取れた。


「戻ってたんだな」


 クロートが続けると、モウリスは黙って腕を解く。


 無言の圧力にレリルはごくりと喉を鳴らしたし、レザは双剣『メリディエースアゲル』の柄に手を置いた。


「女の子。あいつが『アーケイン』だった奴?」


 レザが獣のように唸りながら呟く。


「……うん」


 レリルが答えると、レザは警戒を解かずに翠色の瞳を光らせた。


「へえ……強そうだね、あんた」


 殺気にも似た空気を滲ませているモウリスに視線を合わせたまま、レザはいつでも飛び出せるように身を低くする。


 しかしクロートは後ろ手でそれを制して首を振った。


「レザ。大丈夫」


「……」


 レザはその声があまりに落ち着いていたので「はあ……」とため息をこぼして膝を伸ばす。


 いまにも殴りかかりそうなモウリスを前によくも呑気なものだと彼は思ったが、クロートはそうなってもいいと思っているのかもしれない。


 レザは柄に掛けていた手を放すとゆっくり頭の後ろで組み直し、諦めた様子で傍観することに決めた。


 クロートはレザの様子を肩越しに確認すると、モウリスの目の前まで歩み寄って言葉を投げる。


「――父さんは世界マナリムに還った。俺たちは世界マナリムのマナを循環させるために、核のマナを喰らう『イミティオ』を『創造クリエイト』する」


「……」


 モウリスは黙ったまま濡羽色に艶めく黒髪の少年を見下ろしていた。


 クロートは――最初の頃だったら震えていたかもしれないなと思う。でもいまはモウリスの気迫を肌で感じていても恐くはない。退くつもりも絶対になかった。


 ……やがてモウリスはひとつ頷くと、肩の力を抜いて踵を返す。


 気迫は薄れ、どこか哀しげな空気を背負う大きな背中がガルムを悼んでいることを物語る。


「――あいつは戦い抜いたのか」


 そして、彼は低い声で問うた。


 ……その言葉にクランベルが俯いたので、クロートは苦笑して――ガルムの姿を精一杯なぞり――言った。


「『はっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ!』……当たり前だろ、モウリス」


「……っ、……」


 瞬間、クランベルが息を詰まらせて顔を覆う。


 レリルは彼女に駆け寄って抱き付くと、涙して震えるクランベルにガルムがいかに格好よかったかを囁いた。


「……そっちはどうだった?」


 クロートはそんなレリルとクランベルを横目にモウリスに問い掛けた。


 レザもクロートの隣に立ち、ともに聞く姿勢でいてくれる。


 モウリスは振り向きもせずに淡々と答えた。


「墓所を二箇所回ったがどちらも『ラーティティム』の息がかかっていた。いくつかの棺に核を納め厳重に封をしたが、放っておけば再び『ラーティティム』にやられるはずだ」


「……なら、やっぱり頭を潰すしかないってことか」


「どっちにしても狩るんだし。さっさとやろうー」


 頷いてみせたクロートに、レザは狩人らしい言葉を紡ぎ上げてへらっと笑ってみせた。


「……うん。なあクランベル、そんなんじゃ父さんに笑われるぞ。行こう!」   


 クロートはそこで矛先をピンク髪のエルフへと向け、腰に手を当ててばっさりと言い切る。


 彼女は「うぐ、ぐすっ」と鼻を啜り、レリルの肩に埋めていた顔を上げた。


「……もう。そんなこと、言われたら――行くしか、ないじゃない!」


 顔は涙でぐしゃぐしゃだけれど、クランベルの笑顔は眩しい。


 レリルは目元を赤くしてふふと笑うと、最後にもう一度だけクランベルを抱き締めた。


 クランベルのピンク色の鎧は丁寧に磨かれていたが、よく見れば傷だらけで年季が入っている。


 これは彼女が【監視人】として築いてきた強さの証。


 ガルムもともに過ごしたことがある、そんな時間の足跡だ。


 ――この先、もしかしたら私もこうやって……長い時間を刻んでいくのかもしれない。


 レリルはそう思い、クランベルのような長命の種族がこうやって眩しく笑うことに胸が熱くなる。


 ――こんなふうに笑うために、私は【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】と――クロートとレザと一緒にマナを循環させるんだ。


 そのとき、五人の決意を受け止めるかのように白い大きな扉が音もなく開いた。


『さあ、入るがよい。【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】と、その【監視人】よ』



いざ宝箱設置!

昨日更新できなかったので!

よろしくお願いします。

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