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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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ゆめゆめ忘れることなかれ④

【アルフレイムの迷宮】


 そこはアルフレイム樹海のなかで発見された自然迷宮だ。


 長年の落ち葉が積もった栄養豊富で柔らかな腐葉土からは、下草が鬱蒼と茂っている。


 さらにそこから巨木たちが幹を絡み合わせるように聳えており、天高く枝葉を広げていた。


 そのせいでアルフレイム樹海は昼間でも薄暗く、どこかジメジメしている。


 マナもどちらかというと濃いようで、珍しいことに迷宮内に限らず多くの魔物が生息しており、人はあまり踏み込まない。


 しかし。この樹海には、先人たちの汗と涙と努力によって、街道が一本通されていた。


 その街道を僅かに逸れると迷宮への入口がぽっかりと姿を現すため、この街道が造られた際に見つかった迷宮だという話はおそらく本当なのだろう。


 巨木のうろに空いた穴は下へ下へと延びており、迷宮に挑む冒険者たちの姿は、まるで巨木に食べられているようでもあった。


 そしてクロートたちの次の仕事は、その【アルフレイムの迷宮】の調査である。


 アルフレイム樹海は、クロートたち【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】の隠れ蓑である組織、『ノーティティア』本部があるルディア王国の王都から、馬車で一カ月ほどの距離だ。


 クロートが【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】となったのは、彼の誕生月であるフォルス――四の月――なので、仕事を終えて戻ればフィフルスを跨ぎ、シクルス――六の月になっているだろう。


 つまり、その頃にはガルムが回復しているはずなので、クロートとレリルにとっては丁度よい距離でもあった。


 いま、ふたりは木のうろを覗き込み、奥を見通すことのできない入口を固唾を呑んで見つめている。


******


 ノーティティア本部でハイアルムに報告を終え、クロートとレリルは早速受付へと向かった。


 ハイアルムの話では、仕事の説明が聞けるはずだからだ。


 受付自体は『ノーティティア』に情報を買いにくる冒険者たちも利用するので、横長のカウンターには何人かの受付たちが常に待機している。


 いまも情報を買いにきた冒険者――『ノーティティア』の情報は信頼性が高く詳細もわかりやすいと、多少値が張っても買いにくる冒険者たちも多い――が、順番待ちの列を作っていた。


「あら、いらっしゃーい」


 受付にいたのは、耳が斜め上に向かってひゅんと伸びた女性。


 彼女は、マナリムでは人間に次いで多いといわれている種族、エルフである。


 肩ほどまでで内巻きにされたピンク色の髪――エルフでもあまり見かけないので、もしかしたら染めているのかもしれない――をしており、前髪は眉を少し隠すかどうかの位置で真っ直ぐ切り揃えられていた。


 溌溂さが滲み出る大きな紅い眼とその色に寄せたような唇の紅が、色白の肌に映える。


 彼女は『ノーティティア』の制服――黒地の上下で中は白い襟付きシャツ。大きなリボンが襟の下、胸の少し上で揺れている――を着ており、カウンターから身を乗り出した。


 ちなみに、エルフの寿命は人の三倍あるといわれている。


 つまり、クロートと同じかそれより若く見えたとしても、彼女の年齢は彼の三倍の可能性がある。


「クランベルさん! こんにちは!」


 レリルが先に挨拶をしたので、クロートも挨拶を口にした。


 ここで育ったレリルからすれば、姉のような存在だろうか。


 クランベルはガルムと仲がよかったので当然クロートのことも知っていた。


 ……クランベルとはもっぱらガルムが話をしていたため、クロートはあまり話したことがないのだが。


「やっほー、レリル! ……今回は大変なことになったわね。クロートも。待ってたのよ」


 明るい雰囲気を崩さず、彼女はふたりに「頑張ったわね!」と笑いかける。


 ガルムが危険に晒されてしまったことも、その傷が治ることも知っているのだろう。


 クランベルは受付をほかの職員に任せると、すぐにふたりを個室に案内してくれた。


「今回の仕事はガルムへのものとして用意されてたのは聞いているわよね。でも、安心して。関わってきそうな人がガルムの知り合いかも? ってだけで選んだやつだから」


 小さな個室には四人掛けのテーブル席がひとつだけ。


 あとは縦に長い窓があるだけで、簡素な造りとなっている。


 ここは斡旋部屋とも呼ばれていて、仕事の説明などを行う場所だった。


 クランベルはクロートとレリルの向かいに座り、書類を二部、差し出す。


 表紙には【アルフレイムの迷宮】と書かれていた。


「――頼みたいのはもちろん宝箱設置だけど、それだけじゃなくてね」


 当然のようにクランベルがそう切り出したので、クロートは驚いて書類から顔を上げる。


「えっ? 宝箱設置?」


「うん? そりゃ【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】なんだから――ああ、そっか。クロートがいる前でガルムとそんな話、したことなかったものね。ふふん、私は【監視人】のひとりよ。というか、ここで働く職員は全員そうね。【監視人】か【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】か、その引退者か……」


「えっ、そうなのか――ですか?」


 クランベルに思わず返し、クロートは慌てて言い直した。


 てっきり、仕事は普通に請けて、こっそり【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】としても働くものだと思っていたのだ。


 クランベルはにやりと笑うと、意味深に声を落とした。


「仕事の説明の前に、七級に解禁する情報から教えるわね」


次の迷宮は樹海のなかです。


いつもありがとうございます!

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