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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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134/203

己が意志ではあらざるや③


「はあぁっ!」


 クロートが一番前の『イミティオ』に剣を突き込むと、その後ろから次々と触手が伸ばされてくる。


「やーっ、はァーッ!」


 レザが一体目を踏み台にして、寄り集まる触手を斬り伏せた。


 次の一体を蹴りつけるとレザは天井すれすれまで跳ね上がってさらなる触手を逃れ、そのままクロートの横に戻ってくる。


 相変わらず曲芸みたいだ……とクロートは舌を巻きながら、目の前の一体を核に還す。


 そこに後ろからレリルの追撃がズドン、ズドンと撃ち込まれ、触手を脚としていた『イミティオ』が後ろに揺れた。


「やっ、はァッ!」


 レザは再度踏み込み、蓋に剣を突き立てる。


「下がれレザ!」

「――了解!」


 クロートは飛び退くレザと入れ違いに長剣で深々と穴を穿ち、次の『イミティオ』も核へと還す。


「まだまだぁっ!」


 さらに剣を体の右脇に引き寄せつつ、クロートは左足を大きく踏み込んで再び鋭い突きを繰り出した。


 ――これなら、勝てる!


 そう思ったクロートの足を、床を這うようにして伸びてきた黒い触手が掴む。


「……ぐッ」


「クロートっ!」


 引き倒された瞬間に尾てい骨を強かに打ち付けたが、クロートは触手を斬り放してなんとか脱する。


 レリルがすぐさま矢を射てくれたおかげで、彼は体勢を立て直すことに成功した。


 闇に蠢く触手が好機とみて迫り来るのを、レザがクロートの前で次々に弾き、斬り上げ、貫いていく。


「――まだやれる⁉」

「全然ッ……大丈夫!」


 熱く鈍い痛みを訴えている尾てい骨を無視しようと、クロートは大声で応えることで気を紛らわせた。


 呼吸が乱れ始めたため肩が大きく上下しているのは、レリルとレザも一緒だ。


 ――まだまだッ!


 彼らの頼もしい援護にクロートは硬く冷たい地面を蹴った。


「おおおおっ!」


 閃く剣は幾度となく触手を斬り、レザの双剣が、レリルの矢が――『イミティオ』を仕留めていく。


 しかしクロートのまわりに立ち込める『甘ったるい臭い』は未だ濃いままで、黒い河の流れは一向に途切れない。



 ……数分か、数十分か。彼らの時間の感覚はすでになく、体中が疲労感を訴えるのみ。



 必死に戦い乱れた呼吸をなんとか整えようと一度距離を置いたクロートだったが、『イミティオ』たちはぞろぞろと触手を這わせながらどんどん近付いてくる。


「くそ……はぁ、はぁ……何体、いるんだよ……はぁっ」


「これは、さすがに……ふう、疲れるねー、はぁ……」


 近くに戻ってきたレザがぐるりと肩を回しながら応えたところに、レリルが駆け寄って剣と盾を収束させた。


「私、まだ動けるから――なんとか食い止めてみる。ふたりは早く呼吸を」


 彼女は矢を放っていたので大きな動作はしていない。そのせいか、多少は呼吸が楽そうだ。


 それでも、ともに戦っていたクロートとレザは彼女だって疲れていることをちゃんとわかっている。


「はあ、は……馬鹿言うなよ。レリルの弓がないと困る」


「そうだよー。俺たちはまだ大丈夫ー」


 レリルは――場違いだとはわかっていても――思わず苦笑して、剣と盾を消すと再び弓を握った。


「――もう、意地っ張りだなぁふたりとも! じゃあこうしよう。たぶん戦ってても埒が明かないから、壁際を抜けよう」


 クロートはその提案にぎょっとして、横目でレリルを確認した。


「抜けるって、この中をか⁉」


「そう。『イミティオ』を設置してる【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】をなんとかしないかぎり、このままずっと戦うことになるんじゃないかと思って。……見て」


 レリルは蜂蜜色の髪を揺らすと、瞬時に矢を放った。


 カッ……!


 その矢が突き立ったのは通路の壁面で……なるほど、確かに中央に比べれば隙間があるようにも見える。


 押し寄せてくる黒い宝箱は少なくとも六体が列になっていて、それが横に五本ずつ並んでいるような状況だ。


『イミティオ』は触手で歩くため、速さはそこまで出せないと思えば――。


「難易度高いけど……もしかしたらって感じだねー」


 呆れ半分、尊敬半分で、レザはそう呟く。


 ここを抜けようなどと考えられるのは、ともすれば無謀ともいえるのに、できそうな気がしたからだ。


 ごつごつした壁面沿いをうまく突き崩し、駆け抜ける。


 迫り来る触手はすべて叩き伏せればいい。


 クロートはレザと目配せして頷いた。


「俺が先導する。最短で行くから――レザ、もし俺が道を間違えたら指摘頼む。レリルは俺の後ろ、矢を撃てるようにしておいて」


「いいよー、それでいこう」

「わかった」


 狙うべきは『イミティオ』ではなく人――マナの生命体であるかどうかはわからないが、『ラーティティム』であることは間違いないだろう。


 レリルの言うとおり、この数を相手にしては、おそらくそう遠くない未来に追い詰められてしまうはずだ。クロートはそう判断した。


 そのとき、へらっと笑ったレザがするりと動いた。


「俺は右を行くから、あんたと女の子は左ね」


「レザ⁉」


 驚いたレリルを制して、クロートはにっと笑ってみせる。


 左右に分かれれば敵もどちらかしか狙えない。つまり、どちらも逃げやすくなるはずだ。……レザがそう考えたのだとクロートには確信があった。


「ひとりで大丈夫か?」


「勿論。そっちこそ大丈夫ー?」


「任せろ!」


 ――レザは自分を犠牲にしたりしない。必ず駆け抜ける。……なら俺がやることも同じだ。


 クロートはレザと剣を軽く打合せ、頷き合う。


 レリルはそんなふたりの剣に、頬を膨らませて自分の弓を重ねた。


「ふたりして、私のこと荷物かなにかと間違えてない?」




今週もよろしくお願いします!

また台風が近付いているとのこと。

どうぞお気を付けてお過ごしくださいませ!

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