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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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13/203

ゆめゆめ忘れることなかれ③

******


 レリルの話はとても壮大だった。


 いわく、宝箱を置くことで人は迷宮攻略に夢を見出すのだと。


 マナの生命体――すなわち魔物の核を使う生活に慣れ親しんだ人間は、そこから簡単には抜け出せない。 


 だから生きるために必要と言っても過言ではない核を求めて迷宮に挑み、魔物を狩るのである。


 ……強力な魔物を狩ることは、質がよく大きな核を得ることに繋がり、冒険者は冨と名声を我がものにすることができた。


 数多の迷宮が存在するマナリムで、それを越える数の冒険者がいるのはそのためだ。


 さらに、迷宮には『宝箱』がある。


 その中身は強力な魔装具や高価な宝飾類、もしかしたらあらゆる病を治すことのできる妙薬かもしれない。


 そんな夢を人は見る。


 夢を見れば求めて手を伸ばしてしまうのが人間であり、【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】は、それを形にする術を持つ者たちなのだ。


 宝箱ひとつで誰かの人生が覆るというのは、決して例えなどではない。


 事実、名を馳せた冒険者たちが手にした宝のなんと素晴らしいことか。


 頭の後ろ側で結った蜂蜜色の髪を揺らし、レリルは少しだけ前のめり気味に続けた。


「情報を売る組織である『ノーティティア』が宝箱の存在を仄めかせば、人はこぞって迷宮に向かうよ。【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】が纏う仮初めの姿として、ノーティティアは理にかなってる」


 彼女の黄みがかった翠の眼が、じっとクロートを見据える。


 クロートは彼女のあまりの真剣な表情に思わず視線を泳がせた。


「なぜ宝箱を設置するのか。それは人それぞれかもしれないけど――そこに名誉はある。私たち【監視人】が、ノーティティアの仲間が、それを知っているから。あのね、クロート。【監視人】は……【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】の創造譚を綴る人だ――って私は思ってるんだ。処刑なんてしたくない。あなたの物語を、私に綴らせて」


 そのレリルの真っ直ぐな気持ちがクロートに刺さらないわけがなく。


 正面から彼女の視線を受け止められないでいた彼は、胸がじわっと熱くなるのを感じてぎゅっと手を握る。


 ――俺の創造譚。それを綴るのが【監視人】。


 数多の英雄たちの物語はいつも誰かの胸を躍らせることを、クロートは知っている。


 ――俺の物語も、ノーティティアで語り継がれることになるかもしれないんだ――。


 クロートにとって、その響は抗えないほどに魅力的だった。


 それに、ヒカリゴケの洞窟で遭遇したマナレイドにおいてクロートは願ったのだ。


 訪れる冒険者の無事を。


 自らが『創造クリエイト』した宝箱が手助けとなるように。


 きっとガルムは重傷を負いながらも、あのときクロートがそうすることを望んだのだろう。


 それなら、彼女の言葉にどう答えるべきか。


 クロートは小さく決意の吐息をこぼし、顔を上げて彼女の視線を真っ向から受け止める。


「うん――よろしく、レリル」


 クロートが右手を差し出すと、レリルはぱあっと花が咲くように破顔して、その手をぎゅっと握った。


「ようやく序章が終わった! これからが本当の始まりだよ、クロート!」


******


「よく戻った、【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】クロート。そして【監視人】レリルよ。妾はそなたらを待っておったぞ」


 クロートとレリルは、そのあとすぐにハイアルム――ノーティティアを統べる異種族の長に会いに来た。


 壁も床も白くがらんどうとした大きな部屋の真ん中で、彼女は今日も椅子にゆったりと体をもたせている。


 白い肌に、冴えた蒼い月色の髪。なにもかもを見通しているような金色の眼をした彼女の容姿は、幼い少女のそれ。


 そして、ノーティティア本部の外装や内装のところどころに施された彫刻――魔物の核が埋め込まれた、敵を迎撃するためのものだ――によく似ている。


 ……いや、むしろ彼女を模して造ったのだろう。


「まずはご苦労であった。早速、報告を聞こう」


 ハイアルムがそう言って、金色の細工が施された大きな椅子から体を起こす。


 クロートの隣に控えていたレリルが前に出て、その手に本を収束させた。


「……」


 ハイアルムは恭しく差し出されたそれに右手を載せて、目を閉じる。


 すると……淡い緑がかった光りがハイアルムと本を薄らと包み込んだ。


 あれはマナの光だろう。


 それは幻想的で儚く……それでいて畏れを抱く姿であり、クロートはハイアルムという存在を改めて大きく感じた。


「――うむ」


 どのくらいそうしていたのか――数秒か、数十秒か――ハイアルムは目を開けて手を離しクロートとレリルを順番に見る。


 本を読んだわけではないのに彼女の表情には慈愛すら感じられ、クロートは彼女が自分の物語を理解したのだと悟った。


 レリルは本を消すとクロートの横まで下がり、期待に満ちた目でハイアルムを見つめる。


「よもやヒカリゴケの洞窟でマナレイドとはな。レイドボスにも遭遇したか。初仕事でそれだけの経験をした者を、妾は未だかつて見たことがない。まずはその功労に酬いねばな。……よし、ガルムのことは妾に任せるがいいぞ、クロート。なに、二カ月もあればなんとかなろう」


「……! 本当……ですか!?」


 その願ってもない申し出に、クロートは思わず声を大きくしてしまった。


 たった二カ月でガルムが回復するとは思えなかったが、目の前の――未知の塊のような女性が嘘をつくとは、もっと考えられない。


 ハイアルムはクロートの反応に気をよくしたのか、桜色の小さな唇を綻ばせて、二回、頷いた。


「さて、では本題といこう。クロートよ、ガルムとレリルの助けがあったとはいえ、その経験と情報は賞賛に値する。これより、クロートには七級を授けよう。いっそう励むがよい」


「と、飛び級ですか? ハイアルム様」


 レリルが驚いたように大きく体を引いた。


 ハイアルムは彼女の驚きようにも楽しそうに応える。


「うむ。それから、ガルムに頼もうと思っていた仕事があったのでな。それをお前たちに回そう」


「父さんへの仕事を……ですか?」


 クロートはそれを聞いて、耳を疑った。


 ガルムはああ見えて熟練の冒険者だ。


 【監視人】を連れていないことからも【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】としてクロートよりずっと上なのは間違いなく、仕事内容もそれなりのものだと予想できる。 


 ――それを俺に?


「不満か?」


 ハイアルムの金の眼が、窺うように光る。


 クロートは慌てて首を振った。


「俺たちに、できることなら」


「いい心がけだ。なに、訳あってガルムに……と思っていただけのことでな。迷宮自体の難易度はそう高くない。七級には解禁できる範囲だ。受付で説明を受けられるよう手配しておこう。下がってよいぞ、報告ご苦労であった」


******


 ふたりが部屋から出たところで、ハイアルムは椅子に深くもたれかかり目を閉じた。


 ……駆け出しが訪れる迷宮でのマナレイド。


 それを越えてきた若き【迷宮宝箱ダンジョトレジャー設置人クリエイター】を思い小さく笑みを零したあとで、彼女は自嘲気味に首を振った。


「――この先、マナリムは荒れるだろうの」


 ひとりごちた言葉は、彼女以外、誰の耳にも触れることはなかった。


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