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無明戦士ボンノウガー  作者: 澄石アラン
第四鐘 真赤な煩悩
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12. Fight or Flight-(1)


 指定された明珠高校の校庭というのは、悪くないチョイスだ。

 それなり広さもあるし、周囲は目隠しの植樹に囲まれ夜は人目が気にならない。


 土砂降りの中、その赤いヒーロースーツは校庭のド真ん中に立っていた。

 正義のヒーローらしく。


 それを俺はヒーロースーツの力でよじ登った校舎屋上のフェンス上からこそこそと確認する次第で。

 正義のヒーローらしくなく。


 千手観音サハスラブジャのチンターマニ、追加されたのは例によって邪悪なデザインの篭手。黒い爪までついちゃってる。

 つまり、腕力強化だ。


 南無爺が「(オウガ)」って言うように、どんどんそっちに向かっちゃってるな……。

 デザインのことはともかく。

 相手は武器持ち、こっちも武器とかだったら良かったのだけど。


 とはいえ、無策ではない。

 明珠高校という勝手知ったる場所だ。

 俺はそれとなくリサーチを済ませていた。


「よっ」


 体重を前にかける。

 重力に従い校舎の側面を駆け抜け壁を蹴り、ジャスティス・ウイングの丁度、目の前に両手両足で着地。

 衝撃に跳ね上げた泥を避けたジャスティス・ウイングからは早速のご挨拶だった。


「安心した。文明人であれば話も聞いてやろうと思ったが……まるで獣だな。心置きなく叩きのめせる」


「奇遇だな、俺もお前をぶん殴りにきた」


 ヤツの手には赤い三鈷剣。

 俺はぎちぎちと軋む拳を握る。


 赤と黒の炎が爆ぜて足元から広がる。

 そのインパクトが中央でぶつかった瞬間に――剣は篭手に噛み合っていた。


 俺にはもう一本、腕がある!

 上体の捻りに乗ったフックが顎に着弾する、はずだったがその前に俺の身体が浮いていた。

 ジャスティス・ウイングの姿が一瞬で遠のいて――俺の攻撃より早く、ヤツの蹴りが入っていた。


 身体のあちこちに走る衝撃と、多種多様の破壊音、暗がりに巻き上がる石灰の粉塵。

 突っ込まれたのは体育倉庫だった。


「んのらぁッ!」


 歪んだドアを蹴破る。

 その軌道が偶然にも追撃に突っ込んでくるジャスティス・ウイングの足を一瞬止めた。


 俺は必死に次々と手当たり次第に投擲する。

 かごに入ったボール、三角コーン、ハードル、跳び箱一段目二段目三段目四段目。

 だが俺の抵抗むなしく、ジャスティス・ウイングは真っ直ぐに突っ込んでくる。


 俺はその距離感を、正確に計測出来ていた。

 力、タイミング、測ったとおりに石灰たっぷりのラインカーを目の前に叩きつける。


「食らえッ! 巫女装束の力をッ!」


 十メートルも間は無かったはずだ。

 俺は、事前に()()()()していた白い光を遠慮なくブッ放した。


 俺だって不利なのはわかっている。


 ジャスティス・ウイングはなるべくしてなった明王、血統書付きヒーローだ。

 武器を持っている。動きからして手練でもある。


 今までの怪仏観音戦でもわかった。

 ボンノウガーはいわば大砲型だ。

 のんびりビームを構えている暇があるか、そして相手を回避不能に追い込めているか、それが問題なのだ。

 だからこそのチャージ、だからこそのイカサマ。


 体育倉庫に向かって吹っ飛んだのはラッキーだった。


 石灰のモヤが雨に叩き落されたその中、地面は抉れているが――ジャスティス・ウイングの姿がない。


「チャージ分は吐いたな」


 天井が――。


 雷が落ちたかのような轟き。

 身体はトタン屋根、鉄とセメントの塊に押しつぶされていた。


「残念だったな。俺はお前が馬頭、十一面、千手観音と戦っているのを知っていてな。その程度の浅知恵、お見通しだ」


 こいつ……。

 花魁道中でお蝶さんが誘拐されたときだけじゃなくて、観音戦のときも傍観キメやがっていたのか……!?


「アアアアッ! マジでムカつくな、てめぇはあああァッ!」


 黒炎で圧し掛かったものを振り払い、俺は雨の中を転がるように突っ走ってゴールポストに手をかけた。


「どこだ……鳥野郎ッ! 鳥はカゴん中に入れてやる!」


 視界に赤い炎が入る。

 砲丸投げの要領でゴールポストをブン投げた――空に!


 炎の剣がゴールネットを切り裂く。


 優月は言っていた。

 かなり高く飛ぶ。

 あのポンコツ優月が覚えているくらいだ、相当高く跳躍を見せたのだろう。


 その大振りの間、()()()に散らかしたボール、三角コーン、ハードルを投げつける。

 次々と真っ二つになる投擲物。

 そして単調になる剣捌き。


 跳び箱一段目二段目三段目!


「――ッ!」


 着地寸前、身体の浮いていたヤツを捉えたのは四段目――ではなく、俺の拳だった。


 しかし着弾したのは三鈷剣の半ば。

 ジャスティス・ウイングの身体が泥水を撒き上げながら後退していくのと同時に剣は炎がかき消されるように霧散する。

 ヤツ本体には、ダメージがゼロだ……。


「……ふん、謀るだけの知能はあるようだな」


 逆手に取ったものの。

 末恐ろしいヤツだ。

 俺がいつビームを打ち込むかもわからないあの状況下で、投げ散らかしたモンを無意識下で全部覚え、そして四段目がくると動きを最小限に抑えていやがったのか……。


 ヤバい。

 ヤバいヤツだな、おい。


 胸が震える。

 足が震える。

 なんだ、これ。


 なんだ、すっげー……。

 すっげー。

 どばどばと頭の中に流れてくる。

 俺を肯定する感じ。


 煩悩(こいつ)の名は、そうだ――闘争心、戦意、本能!


 背中の炎が勢いを増す。

 囃し立てるようにベルトが回った。


「悪鬼め……」


 ジャスティス・ウイングも拳を構える。

 これで勝負は、五分と五分!

 気持ちよく仕切り直しだ!


「お前が立ち塞がるのなら、俺は越えなければならない!」


「お前が突き進むってんのなら、俺は迎え撃たなきゃならねぇ!」



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