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無明戦士ボンノウガー  作者: 澄石アラン
第四鐘 真赤な煩悩
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11. 大スペクタクルアドベンチャー説法-(2)

「そして、あいつにとっても荷が重すぎる」


「ジャスティス・ウイングの制御力が、ジャスティス・ウイングにとっても重過ぎる……?」


 そこでアキラは一つ手を打って「説明してやろう」と仁王立ちになった。

 ことさら股間を強調するように。

 通常運行。


「欲望や信仰など様々な色はあれど、根幹は同じ。生命をさらに活性化させ進化を促す意志的エネルギー。その中でも煩悩は人類特有の力だ。意思的エネルギーを己の力として操ることを《如意》という」


「つまり、俺が使ってるエロビームも怪仏から出てる変な力も全部《如意》ってことか?」


「ああ、そうだ。ベルトは中央のサーキュレーターが、周囲の意思的エネルギーを吸い上げ、チャクラを介して装着者にプラーナを働きかける」


 聞き覚えの無い、おそらくはオカルト単語が続いた。

 俺は首をかしげたが「細かいことは良いか」と、アキラは話を押し通す。


「だが、いくらベルトの制御があろうとも如意の制御を人間が行うのはリスクが大きい。期待、信仰、希望、憧憬、欲望……他者の意思を受け止め背負うことになる。その精神的重圧は相当なものだ」


「重圧……? 俺はそういうの気にした事ないけど……」


「禅、お前は意思的エネルギーを向けられていない。つまり期待されていない」


「え?」


 え?


「お前が放っているのは外から入ってくるものではない、自分の内側から溢れているものだ」


「そ、そのリスクって……?」


 俺はまさか知らぬところでリスクを払わされているのでは?

 寿命が縮んでいたりするのでは?

 思わず生唾を飲む。


「自分の内側から溢れているものを解き放つ、そのリスクは!」


 リスクは……!?


「――無いッ!!」


「…………」


「普通は分別と遠慮で抑えられるはずだが、己の恥ずかしい煩悩があれだけはっきりとした形に出るのは才能だ! 度重なれば社会的死ともなるが、お前はそれさえも無効だ! あらゆる即死要素が無効だ! さすがだな、禅! これで無双能力者の仲間入りだ!」


「黙れ、変質者! 俺だって恥ずかしいと思って涙ぐましい隠蔽工作を試みているんだよ!」


「謙遜するな、お前は監視カメラがあろうと壁が薄かろうとひとりで致してしまうほどの厚顔じゃないか!」


「それはしょうがないじゃん、健康なんだから!」


「しょうがないしょうがないと、人生を軽率に煩悩に振り回されそれを良しとする。煩悩の塊、煩悩の根源、自家発電、いや永久機関! さすが僕が見込んだだけのことはある……!」


「うるせえぇえええッ!」


「ブラァァァボオオオオオオッ!」


 熱弁の末、見えぬ大衆に訴えかけるように両手を掲げたアキラ。

 拍手喝采でも聞こえているのだろう。


 俺は今、(けな)されたのか?

 貶されたよな?


 答えてなるものか。

 認めてなるものか。

 俺はその腹の立つ賞賛を全力で無視した。


 ひりつく沈黙。

 アキラは認めろと、俺は認めてなるものかと、静かな小競り合いがあったが勝負はお預けとなった。


 アキラは、お約束に長い髪を気障にかきあげ、ドアの向こうをちらりと見やるなり、少々意地悪げに微笑む。

 まあ、俺もそこには本施設の管理人さんの気配を感じていたんだけれど。


 彼女に聞こえるようにか、心なしか声を大にしたアキラの熱弁が再開してしまう。


「禅、お前が永久機関で即死無効なのは他者あってこそだろう。一人で戦うことが強さではない。お前は苦悩と勝利を――」


 そしておもむろに足元にズボンを持ち上げ――やっと着るのだろうなと思った俺が馬鹿だった――何を思ったか、ビィッ、と小気味良い破壊音を立ててズボンを左右に割きちぎった。


「――分かち合ってきたッ!」


「誰がそのズボンを縫うんだ」


「だが! あいつには背負った如意の重圧を分散する場所がない。お見通しの誰かがいてくれるわけでもない。あいつ自身も制御しきれていると思い込もうとしている。即身明王とてあいつの心は人間……このままではいつか折れてしまう」


 アキラは鮮やかに俺をシカトしてさらに語調を強めると、視線をドアの向こうに突き刺す。


「他者を犠牲とし一人に背負わせたところで簡単に清算出来るはずがないのだ。他者を踏み台とし一人で進化を遂げたとて孤独の重圧に耐えられるはずがないのだ。この街は五十年前からその過ちを繰り返していた」


「…………」


 今の俺にはアキラの言い分が解った。

 華武吹町は優月一人を犠牲にした。俺は繰り返したくない。

 そして、先に何が言いたいのかも。


「禅、お前の煩悩であいつを……あの頭の硬いヤツを解らせて、ヒーロースーツを……押し付けられた宿命を脱がせてやってくれ! それこそが真の――」


「――はいはい、解脱解脱」


「……禅」


「ハナっからそのつもりだっつの」


 ヒーローは、助けを求めているヤツを救う。

 それが弱くて地べた這いずり回ってきた俺にとってのヒーロー像だから、俺が証明しなければならない。

 いや、そんなカッコいい感じじゃなくて……こういう現実から逃げたら俺の中にある芯がぽっきり折れちゃいそうで。


 だからこそ力いっぱい、ぶん殴らなければならない。

 お前と同じ場所に立って、俺が半分背負えるって解らせなきゃいけない。


 他に方法が……それしかヤツに届く方法が、無い。

 他の方法を、ヤツは望んでいない。


「そうか、であれば僕がこれ以上説法することは無いな。君は僕が言いたいことをお見通しでしっかり解ってくれている。ちなみに仏教では分かり合うことを感応(かんのう)道交(どうこう)と言って、平たく言えば僕と君は官能(かんのう)をどうこうしているということだ」


「ああ、話半分も頭に入ってないし今の気色悪いニュアンスで台無しだけどな……ってお前」


 抱えた頭を上げると、アキラはスケスケのコックコート、ほぼ破れたズボンからピンクフリルパンツをのぞかせているという風評被害確定な格好で開けた窓枠に足をかけているところだった。

 俺の中で固まりかけていた男気とか決意とか、そういう暑苦しいものがしなしなと萎んでいく。


「僕は少し忙しくなりそうなのでね。あいつのことは頼んだぞ、禅」


 と、いつも通りの調子で状況お構いなしに雨の中に飛び降りて出て行ってしまった。

 呆れている間にスクーターのエンジン音が遠のいていく。

 また仕事中だったのか……。

 あのおっかねえ店長に怒られるんだろうな。


 …………。

 しかし今回の襲撃はあっさりしていたな。

 部屋が濡れているのは雨だったせいもあれば、俺に実害が無い時点でまだ良い。

ちったあこっちの住宅事情を考えて欲しいけれど。

 これでネタが尽きてきたのなら今日からは安心安全安泰だ。


 んじゃ……とりあえず小便だな。


 共同トイレの小便器に向かい合い、いつも通りパンツを――なんか、すーすーする。

 違和感にパンツを下ろす。


「え」


 見覚えのある光景の中、竿まで見渡しの良い禿山になっていた。


「ひぇっ、どういうことッ!?」


 雑菌も繁殖しにくいから衛生的って言うもんな。

 梅雨だし、その後は夏だしな……ってやかましいわ!

 と、心の中でセルフ突っ込みしてしまうくらい俺は動揺したのである。


 明らかにヤツの仕業だ。

 見誤っていた。

 なんかいい感じに纏め上げられていて疑っていなかった。

 前回と比較して許した俺がバカだった。


 今まで散々やられたが、とうとう俺の肉体にまでヤツの気色悪いジョークが襲い掛かったのだ。

 間違いなくワーストワン。


 俺が……この俺が、パイパンにされるなんて……!


「あいつ……許さねぇ、絶対ぶっ飛ばす……ッ! ジャスティス・ウイングの次にブッ飛ばしてやる……!」


 えてして俺はジャスティス・ウイングにボコボコにされるわけにいかない理由がまた一つ増えたのだった。


 そして、(きた)る決闘のとき。

 その夜がくる。

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