10. 大スペクタクルアドベンチャー説法-(1)
本来であれば心休まる唯一の砦……のはずの自室。
いまや監視カメラ数台、そしてアキラによる天井改造と何故か復旧した緊縛ロープ、プライバシーも方向性もへったくれもない俺の部屋。
だが。
しかし。
まさか優月が、ゲームやAVの中にしか存在しないと思っていた巫女属性を隠し持っていたとは……。
まだ言うか?
まだ言うよ!
あの偉そうな口ぶりはむしろご褒美、デレているのもなお良し。
平たく言えば、俺史上、華武吹曼荼羅のグロダメージを軽く上回る大ニュースだったのだ。
なお、俺の手には未だにエロリスト沙羅が持つ兵器、メロン級御御御乳の感触が残っている。
もう恒例になりつつあるし、挨拶代わりに触ってもいいんじゃないだろうか。
もっと気軽な仲になるべきなのだ、あの谷間とは。
そしてここのところ陽子も大人の魅力を発揮してきている。
ギャップ萌え。非常によろしい。
胸の発育はまだまだで、えびせんをブラジャーにしても割れないし全く違和感なさそうな貧の乳だが、健康的な美脚は他の野郎連中の視線を集め、誰もが認めるお宝だ。
陽子に関しては、前二つと違っていざその時がきてもばっちゃの顔がちらつくので未だ汚せない領域だが、そろそろ限界が近い。
ちょっとくらい味見させてくれたって良い。肩車をさせてほしい。性的な意味で。
このようにして毎日、エブリデイ、大量投入されるピンクタイムの素材。
これを頂戴せずに我、男子と声高に言えるはずがない……ッ!
ということで、完全に開き直っていた俺は貫禄のすっきり、堂々ぐっすりと眠る生活に至っていた。
だいたい、俺を監視カメラで見張っている双樹の連中よりもまだ健全と言える。
そうしてなんとか息を吹き返した穏やかな日々に、重大問題を一つ忘れていた。
俺としたことが、あれだけやられたにもかかわらず、ヤツに対しては無防備になっていたのだ。
悪夢が再来したのは件の土曜日、その朝だった。
「ぐかぁ……優月ぃ、巫女装束……ちょっとずつ味見させてくれたって……うぅ……んぐ?」
苦い。
独特な香りが鼻腔に広がり、口の中にもそもそとした感触が残る。
「え、この下着……そういう味すんの……?」
えっと……パクチー味?
もぐもぐ……。
えっ、また口に入れられて……もぐもぐ。
「もう、もう、いらない……もじゃもじゃする……味見ストップ……!」
はっ、と目を開くと――驚き半分、やっぱりな半分。
ご無沙汰していたエスニック系変態美形の顔面があった。
思わず口の中に詰め込まれた草を噴出す。
見事、パクチーを回避したアキラは相変わらず一人でバカ笑いして暑苦しく言い放った。
「禅! 久しぶりだな、寂しくなかったか!」
「全然」
「それはすまなかったな! 預かっていたチンターマニの調査に少々手古摺っていたのだ!」
俺は這いずりながら冷蔵庫の炭酸飲料を取り出して口の中のパクチーを押し流した。
何の嫌がらせなのかわからないが、前回の起こし方より多少マシだ。許す。
何より、服を着ているようだし……着て……いるのだが。
ひたひたと滴るほどのズブ濡れ状態。
雨音からしてみれば、外でデリバリーをしているアキラは、まあそうなるだろう。六畳一間にも水溜りが出来ている。
アキラ本体はいつものコックコートを着ているのだが、濡れた白い生地の下からはフリル付上下の布の陰影が見て取れた。ピンクに水玉模様だ。
「アキラ……ブラ、透けてるぞ」
一応、言った。
「何を言っている。お前のようなスケベ男子には大スペクタクルアドベンチャーイベントだろう! 心行くまま楽しめ!」
無駄だったので脱線した話を戻す。
「しかし、前に比べて、結構時間かかったんだな」
「ああ、こいつは一苦労だった。バイトも休んだし、しばらく家にも帰ってない」
そう言いながら珍しく眉尻を下げたアキラ。
鬱陶しそうに濡れた前髪をかきあげ、そしてその流れで濡れた上下を脱ぐと窓の外で絞り水気を払った。
見たくない乳首制御装置などが視界に入るが……まあ、俺の部屋にいる分にはいいか。ずぶ濡れのままでいろとも言えないし。
「そして件のチンターマニだが――」
アキラが指先を翻すと、いつかのように大きな黒真珠、チンターマニが現れた。
千手観音サハスラブジャと戦い、沙羅が吐き出したものだ。
アキラは指の間に挟まったそれを忌々しげに睨んでいた。
「これにはずいぶん、抵抗した痕跡があった。双樹沙羅だったからこそ長期間、怪仏化を免れたと言っても良いだろう、あの女はなかなかやる。大抵の人間では文字通りお陀仏だったはずだ」
沙羅は確かに図太い。
キレ者でもある。
十四股しておいてあの軽い調子なのだから、メンタルもヤワじゃないだろう。
大抵のことを悪いと思わないはずだ。
全然腑に落ちないけど。
裏を返せば、そんなメンタルの持ち主でさえ、チンターマニを埋め込まれてしまうと煩悩を掻き消され怪仏化してしまう……か。
「しかし禅、気をつけろ。だんだんと近づいてきているように思える」
「え……何が?」
「観音のターゲットが、だ。だからこそ、お前は今後もヒーローとして戦ってもらわなければならない」
そりゃあもちろん、優月とTogetherするまでは頑張りますって感じなんだが……。
「継続依頼ってことは……やっぱお前が俺を見限って、お仲間のジャスティス・ウイングで引導を渡そうってワケじゃあねえんだな?」
俺の疑念に対するアキラの返答は極めて明快だった。
「ああ。僕は全く関係ない。百パーセント私怨だろう。力いっぱい、コテンパンにしてやれ」
「仲間じゃないのか?」
「仲間だからこそ、だ。あいつの制御力はあまりにも抜きん出ている。抑え込むのが上手すぎる」
アキラはそういってチンターマニを持っていた手で空を掻く。
黒真珠はすっかり消えていた。
これで俺に装着されたってことか。
一体、何されているんだか……。
「そして、あいつにとっても荷が重すぎる」
「ジャスティス・ウイングの制御力が、ジャスティス・ウイングにとっても重過ぎる……?」
そこでアキラは一つ手を打って「説明してやろう」と仁王立ちになった。
ことさら股間を強調するように。





