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無明戦士ボンノウガー  作者: 澄石アラン
第零鐘 華武吹町で逢いましょう
208/209

優月へ


 あれから。

 あれから――どのくらい経ったっけ。


 今年も、桜が咲いてる。


 去年は、一緒に歩けなかったな。

 これからはもう、一緒に歩けないんだな。




 優月が目を覚まさなかったあの朝から、この一年間……心配かけちゃったよな。

 あの頃みたいに、作り笑いするのが精一杯だった。

 何度こうやって手を合わせにきたかな。

 梵能寺のオヤジの墓の隣、おまえのところに。


 でも、長い長いヒーローの物語もこれでおしまい。

 楽しかった?


 おまえの前だから、やっぱついつい……ちょーっとだけ、カッコつけちゃったかもしんないけれど。

 そんで、やっぱり「だからおまえは」「長い」って……怒るかもしんないけれど。

 でも解って脱いだ俺の物語、どうしても優月に伝えたかったんだ。


 ああ、ソラは――愛は元気だよ。


 愛は相変わらず、頑固だし、変なタイミングで素直になるし、おまえそっくり。

 しっかり者なところは俺にそっくりだけどさ。

 ときどきケンカにもなるけど、仲良くやってる。

 空っぽになんてさせないよ、絶対に。


 あとどのくらいになるかわからないけど、俺もうちょっと愛と生きるから、待っててな。

 また長話できるように、いっぱい思い出、抱えていくから。

 そっちはいい男なんて山ほどいると思うけど、浮気すんなよ。


「お父さん、もう帰るよ! いつまでも俯いて泣いてたら、お母さん心配するでしょ!」


 あ。

 愛が呼んでる。

 怒られちゃった。

 愛だって辛いのに、強いよな。


 陽も暮れちゃったし、もう行くわ。

 これからはごはん食べる。

 一応、生きてる。

 心配しなくて全然、大丈夫だよ。




 ……。

 ……。

 ……嘘。


 嘘に決まってんじゃん。

 ダメに決まってんじゃん。


 だって優月がいなくなって、まだ一年だし……もう一年だよ。


 立ち上がれそうになかった。

 生きるのが辛くて仕方なかった。

 ここに逃げて来ることさえ。


 いまだって、抱きしめたいよ。

 甘えたいよ。

 せめて声を聞きたいよ。

 俺はこの一年、ぐちゃぐちゃになっちゃって……。


 でも、みんなが支えてくれたよ。

 それにベルトのことを思い出したら、俺と優月も繋がってるって思い出せたよ。


 ダメだけど、寂しいけど、生きるのしんどいけど。

 神や仏に呪われてるって蔑まれても、しがらんで、甘えて頼って、甘えられて頼られて生きて……生きるの、頑張るよ。


 頑張るからさ。

 お願いだよ。

 見守っててほしい。

 照らしていてほしい。

 俺が、優月と愛のヒーローでいられるように。


 そんじゃ……またな。






 ――あ、それから。


 愛してるぜ。

 ずっと、ずーっと。


「お父さん、見て! お月様見える!」








無明戦士ボンノウガー <完>


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