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無明戦士ボンノウガー  作者: 澄石アラン
第八鐘 壊れかけの煩悩
156/209

03. ナース魔王いぬプレイ説法-(2)


「一週間も寝転がっているのは退屈だろう」


「いいえ」


「退屈だろう」


「全然! どんなふうにナースプレイに持ち込むか考えるのに忙しいんだよ、こっちは!」


「正式なルートでもぐりこんだんだ、三瀬川院長を脅せるネタを探ってこい。風祭の話によれば、偶然に曼荼羅条約の椅子が転がり込んできた意地汚い小物だそうだ。武力か金でゆすれるかもしれん」


「忙しいっつってんじゃん! 俺はいま、優月とのナースプレイが何よりも大事なの!」


「普通に頼め」


「たしかに!」


「いいか何の糸口も手に入れられなかったら、原因は不明だがお前の左足も――折れることになる」


「おっと? 不明じゃないよね? ジャスくん今、折るジェスチャーしたよね?」


「わかったな。さっさと退院したかったら働け。曼荼羅条約と()()()()は最早セットだ、事は急ぐぞ」


「…………ぬ」


 銀蠅……ね。


 腐肉とそこに(たか)る衛生害虫に例えるとは、赤羽根にとっても曼荼羅条約ならびに聖観音アーリヤは不愉快指数が高いらしい。

 多分、その数値は俺の方が上回ってるけど。


「……そりゃ確かに頑張らないとな。あいつの澄ました顔面を焼いてやるまで、腹の虫が収まらねえ」


「ああ、連中は一応にも高尚な信仰の力で成り立っている。お前の薄汚い煩悩が最も効果的だろう。残るは聖観音、そして如意輪観音のたった二体、連中のチンターマニさえすべて回収してしまえばこちらの勝利だ。正念場だな」


 いつも通りの嫌味を言いつつ、赤羽根は「だがな」と目元を隠すように眼鏡のブリッジに中指をあてた。


(から)にはなるなよ、鳴滝」


「カラ?」


「輝夜雪舟の資料によれば、即身明王も怪仏も現象としてはほぼ同じだという。明王が俺たちの意思を押し潰さぬようシステム制御されているだけで、起きていることは怪仏化ならぬ、明王化だ。実にシンプルな仕掛け(ギミック)だな」


「はー、明王様には日々お気遣いいただけてるってことなんだなあ」


 ベルトが喋らなくなったのは意思干渉(そこんとこ)が原因なんだろうか。

 思い返せばなかなか乱暴な導入だったのも、干渉の手数を減らすためだったのだろう。


 腹の下に手をあてる。

 ゆるゆると回転の圧があり、俺はそれを肯定と受け取った。

 そう。

 愛染明王が主張したのではなく、俺がそう勝手に解釈しただけ。

 屁理屈かもしれないが、意思干渉はされていないのだ (と、俺が思い込むことが大事な気がする)。


 妙な間があり――そして赤羽根は観念したかのように溜息を吐く。

 依然、不愉快極まりない服従ポーズのアキラを一瞥、それはもう感情を押し殺すように淡々と言った。


「……こいつと戦った時、俺は不動に呑まれかけた。適合したとき以来の体に電流が流れるような感覚だった。おそらく、(から)になりかけていた」


「不動明王が……乗っ取ろうとしたってこと?」


「敵意の有無ではない。空いた場所に、強い力が流れ込むのは節理だ。神仏の意思力を返り得た者が絶望したとき、意思の奔流に押しつぶされ肉体さえも壊れる……不動明王丹田帯の適合者探しで犠牲が出たように。それは愛染明王丹田帯――お前にも起こり得ることだ。それだけはあってはならない。気を付けろ」


「気をつけろったって、逆に俺から煩悩とベルトとったら何が残るんだっつーの! 心配ご無用!」


「……だと、いいがな」


 言いながら立ち上がった赤羽根の眉間に深いシワを見た。

 色素の薄い碧がかった目が、窓の外――平穏な午後をとらえると、ふと表情のこわばりが緩む。


 日頃からそうやって肩の力を抜いていれば、もう少し女にちやほやされそうなものを。まあ人間に興味ないんだろうけど。


「銀蠅のやり口は気が滅入る。だが、あいつを滅するのは俺たちの宿命だ。おまえが空になっては元も子もない。しかし――」


 さらに一呼吸。

 今日はずいぶんと歯切れが悪い。

 ようやくして、赤羽根にしてはずいぶんと生暖かい嫌味を吐いた。


「……まあ、そうなりかけたのなら無様だろうが誰かに縋れ。お前にはその方がお似合いだ」


「こういうときは嫌味込めないで"助けを求めるヤツを救うのがヒーローだ"って爽やかに言うもんだろうが。アレお気に入りでしょ」


「考えておく」


 それだけ答えて、赤羽根は病室を出て行った。


 結局、終始挨拶など無し。

 仲良くしようという気はない、そんな態度だ。

 まったくもって素直じゃないし、不器用で自分に厳しすぎる。


 それでも、ずいぶんと柔らかな印象になったもんだ。

 肩の荷が半分ほど下りた。

 俺にはそんな風に見えた。


「ワンワンワン!」


 いやあ……清々しい気持ちにもなるだろう。


「正義、さては放置プレイだなっ!」


 俺はその分、鬱陶しい気持ちになってるけどな。


「このままでは禅のペットになってしまうぞ、くぅんくぅん!」


「…………」


 俺は汗ばんだ手で携帯電話を握りしめ、震えた指で赤羽根のアドレスを開いた。


 一秒でも早く引き取りに来てほしい……。

 このままでは絶望してしまいそう!

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