7話 騒乱の後で
「なんか凄い記憶にあるな。こんなの。」
凄く見覚えのある天井にため息をはき、生きていることに安堵する。まさか、天国がこんな中途半端にボロい家ではお出迎えしないだろう。地獄にしてはかなり優しい空間だ。
「違ってんのは今回はばあちゃんが起こしにくるんじゃなくって、俺が女の子起こさなきゃってとこだな。」
看病でもしてくれていたのか、俺の膝を枕にして寝ている女の子がいる。ありがたいんだけどその枕頭痛くないですか?俺は膝が痛い。
火傷は二の腕の中程まで広がったのを確認してから女の子を揺り起こす。先に起こすと、少女の目の前で服を脱ぎ火傷を見せて来る男になってしまう。秒で変態認定待ったなしだろうね。俺なら通報する。というかそれ以前に多分貴族でしょこの子。服と髪で女は分かると豪語していた伯父さんの血が流れている前世の俺の記憶的に間違いない。...結構不安になる根拠だがまぁ、間違いないだろう。
「さて、現実逃避が限界だからそろそろ目覚ましてくんないかなぁ。」
12歳の男の子でも、女の子を膝枕するのは割と心にくる。かなり気恥ずかしい。ただ文字通りの膝枕は痛い。彼女も痛いと思い、少し強めに揺する。
「んぅ、ん~?ソフィアおばあちゃん、まだ眠いよ~。」
「いや、幼児退行してんなや。って、つってもまだちっこいか、こいつ。」
うーん、もう下ろしたんでいいかな?そっと膝を抜き取り良い匂いのただよう台所に行き、お金と開いた扉と食材の絵のかいてある読めない文字だらけのメモを取る。
「文字はあの子用かな?なるほど。買い出しにいったか。そういや昨日の火事で食材持ち出す準備してたな。ばあちゃん、町ん中の人に配ったんかな。」
日めくりカレンダー様なもので日付を確認しつつ、ばあちゃんの居場所に検討をつける。戻るまで、あの子の正体は不明なので昨日、ばあちゃんの見せた魔法と「火狂い」に考えをめぐらせる。俺もピルケアルのおかげで使えるようになった「力」と似ている。ばあちゃんのみたいな魔法陣が光る事は無いけど。そうすると「力」は「火狂い」に近いんだろう。嫌だけど。でも、アラストールと契約した「火狂い」とピルケアルと誓った俺はにてるだろう。嫌だけど。そう考えるとばあちゃんも何かと契約したのか?うーん、それも嫌だなぁ。悪魔の使いみたいで。
朝から憂鬱になってしまった俺は、何故かまだ暖かい朝食をとった。昼なんだけどね...
「さて、どうしよう?」
いまだに寝ている少女を見下ろして俺はため息を吐く。ここは、俺の部屋なのだから着替えたいのだが途中で目が覚め、変態としてこの家から放り出されると困る。隣にある、可愛らしい部屋は目の前の少女の部屋に違いない。つまり、ばあちゃんがこの子と親しいのも分かるし俺は弁明できる言葉がない。どちらが有利か明白だ。かといって寝ている女の子を抱っこして運ぶ度胸はない。十二分にヤバイだろう。なんたって貴族(仮定)だ。
第一誰なのだろう、この子は。部屋はあるのだから今日帰る事はないだろう。ということはこの子が来てるこの家は貴族の持ち物でばあちゃんは貴族になってしまう。わっかんねえな、どうも。貴族ならこんなガキ拾わんだろうし、ばあちゃんは貴族じゃない?
「うん、そうだよ。ソフィアおばあちゃんは貴族ではないかな。」
「やっぱりか。てことはあの子も貴族ではない?いや、ばあちゃんが貴族に信用されている?何故?」
「私は貴族だし、ソフィアおばあちゃんは凄い魔術師だし、あんな人柄だから結構好かれてるんだよ。選民意識の高い人は嫌ってるけど。魔術は平民に使うほど安くないって。」
「うーん、やっぱりこの国は中世のヨーロッパ辺りに近いのかな?宗教や魔女狩りもあると考えた方がいいのかな?」
「宗教はあるし、魔女狩りっぽいのもあるけど、それは契約者が問題を起こすからで魔術師や共存可能なのがが認められている悪魔の契約者はそうでもないよ?」
「ん?魔術師と契約者ってのは違うのか?」
そこで俺ははたと気づく。
「えっ?なんで言葉...。ってか起きてたのか!?」
「気づいてなかったんだ...。学者さんみたいな人かと思ったら単純に寝ぼけてたの?」
「飯も食って顔も洗ったっての。てか、なんで俺の考えが読めるんだよ。」
「だってずっと喋ってたし。あと、ご飯私の分はあった?」
「...あったよ。ちなみにどこから俺は喋ってたのかな?」
「それは知らないけど、私が目を覚ましたのは「着替えたいのだが途中で目が覚めて変態として~」ってとこ。」
「大分最初だなそれ。」
俺が一人で落ち込んでいると少女は部屋を出ながら振り向き、こんなことをのたまった。
「じゃあ私もお風呂入って着替えて来るからしばらく部屋からでないでね。変態君♪」
唖然としているうちに上機嫌に閉められた扉につい叫んでしまった。
「初対面の知らねぇ奴にそこまで言われる義理はねぇーわ!!!」
言葉の事を聞き忘れたと気づいたのは一階から水を流す音が聞こえてからだった。
次回、「騒乱の後に少年達は語り合う」
お楽しみに!