5話 覚醒と出陣
燃え盛る炎を腕の一振りで掻きけした。じくりと右肩に痛みが走る。どうやら「力」を使うと火傷として反映されるらしい。流石に傷痕はばあちゃんも治せはしないだろうがそれは大した問題じゃない。目の前でずっと水を全身にまとわせ続けてる少年の炎も掻き消しておく。つか、ずっと燃やされながら水纏い続けてるとか、あいつ凄いのでは?「力」は何気に集中力がいる。俺が目覚めたばかりだからかもしれないけど。
「...なぜ?何故アラストールの、俺の炎が消えるのだ!?そんな事はあって良いはずが無いのに!!?」
さて、どうしよう。あまり「火狂い」の炎を消すと俺の皮膚が火傷だらけになる。確か皮膚って失いすぎたら不味いはずだ。今は、右の頬の口辺りから下へ行き、右肩は全て覆っている。完全に治りきった状態なのは不知火静葵、もといピルケアルの必死の頑張りの恩恵だろう。まぁ、俺なんだけど。だから、張り付いたり出血は無いけど痛みと違和感が酷い。後、実感は無いが皮膚呼吸も死んでいるだろう。
つまり、俺は回数に制限があるはずだ。もしかしたら量かも知れないが。これに気づかれたら「火狂い」は辺りを燃やせば俺が死んでいくのを眺めるだけでいい。多分、俺を燃やし続ける方を選ぶけどな。一方こちらの攻撃手段がない。一様剣が有るが俺は剣士じゃない。多分素手よりは強い筈だが...強いよな?
「お前がやったんだろう?お前がこの美しい炎を殺したのだろう?ふざけるなよ?クソガキがぁ!!」
言うなり奴は燃えた。燃えた!?しかもそのまま足蹴を放ってくる。剣で横凪ぎに払うと奴は一度速度をおとし剣をやり過ごすと急加速し、再び蹴りを仕掛けてくる。俺はそのまま剣を放り出し、相手の火を消しつつ横に避けて足払いを掛ける。転げた「火狂い」はそのまま受け身をとり、立ち上がる。
思った以上に近接戦が出来る。前世では簡単に投げることが出来たので違和感が強い。まぁ、俺が12歳のガキだと言うのも関係していると思うが。執拗に蹴ってくるのもそれ以外当たりにくいからだろう。見れば奴の足跡がくっきりと焼け焦げており、わずかに火がちらついている。踏んだら消えたので、絨毯が炙られ発火したのだろう。確認がとれたな。「火狂い」の炎は燃え移らない様だ。
「sgi...。ankiykstgkknyrattir...。」
おい、少年早く避難してくれよ。って、動けないのか。全身に火傷あるし。でも、水纏ってるから酷くないかな?かなり痛いだろうが治せるだろう。
「くっ、蒸発しろ!クソガキ!【処刑する炎】。」
ディミオス・フロガーってギリシャ語か?アラストールがギリシャ神話の神だったはずだし、何かの合図なら消せるか分からないな。
突如俺の頭上が光る。見上げると巨大な魔法陣とでも言うものが浮かんでいる。ゲームみたいに来るなら狙いは俺だろう。天からの火柱とは、まさに天誅のようだ。絶対降る場所間違えてんだろ。あいつに落ちろよ。
「皆さーん。こちらです。食事と泊まる場所を提供いたしますわ。怪我人はあちらに集まりなさい。ソフィア様が治療してくださいますわ!」
別邸に横付けした馬車から叫ぶ。途中で思い返して、ソフィアおばあちゃんもつれてきてもらっている。御者さんお疲れ様です。
「やれやれ、年寄り使いが荒いねぇ。流石エレシアちゃんだよ。」
「あの、ソフィア様?ちゃん付けはそろそろお止めください。それに流石って何ですか?私は日頃からそんなことしてるとおもわれてたのですか!?」
「元気が良いねえ。はい、終わりっと。次だよ、あぁ、こりゃ魔術使うまでもないさ。薬塗りな。次は誰だい?」
「...まぁ、ソフィア様に頼りきりもいけませんわね。私も手伝いますわ。」
私が魔術での治療に加わると列が出来た。あの、長いです。
「なんだい、私よりエレシアちゃんかい?現金な男たちだねぇ。」
「あの、魔力が持ちませんわ...。」
「だろうね。後は何かあったときにとっておこうかね。重症なのはもういないだろう?」
「ソフィアさーん、俺エレシアちゃんが眩しくていけないんだけどこれって重症じゃね?」
兵士の皆さんに笑いが起こる。うーん、こんな状況でもこの発言をさせるソフィアおばあちゃんの包容力すごいなあ。若い頃モテたろうなあ。まぁ、私今モテモテだけどね!
「バカなこといってないで、庭にテント張るのをてつだっておいでな。力仕事だ、得意だろう?」
「あいよー。分かったぜ、ソフィアさん!」
男の人たちが皆向かった時だった。
少し遠くで空が光った。赤く禍々しいその光は...。
「魔法陣だね。しかも魔術のものじゃない。ありゃ魔法のもんだ。」
「あ、あんなに大きなの初めて見た...。」
「エレシアちゃんの口調が直ったら、行こうか。嫌な予感がするよ。」
「うん!じゃなくて、はい、わかりましたわ!」
「じゃあ行こうかね。」
怖がる子供を安心させるような笑顔でソフィアおばあちゃんはそっと笑って頭を撫でてくれた。
次回、「鎮圧と撃退」
お楽しみに!