4話 因縁は再び交錯する
「水なんて、無駄なことを、頑張るなぁ。そうだろう?アラストール。君の炎は、消えること、なんて、無いのだから。」
その声にゾッとする。間延びした忘れることのない声。押さえきれない怒りが体の底で荒れ狂う。
「おや?誰か、いるな?助けかも、しれないねえ?えっと、ケアニス君、だったかな?水なんて、かけても、炎は、見えないし、苦しみが、長引くだけだ。止めるといい。さて、誰なんだい?そっちの、壁かな?」
「ngr!hyk!」
「アラストール、この子供は、何て、言ってる?...そこは、助けてじゃあ、ないのか?あぁ、この子も、長く、炎に、包まれて、いたいのかな?それなら、心配要らないよ。アラストールの炎はアラストール以外その灯火を消すことはできない。水で弱まりはするが、すぐに蒸発していくのだから気休めにしかならないよ。」
近くにあった剣を持つ。剣を握る焼死体が近くにあるのを見ると多分無意味だが、ないよりマシだ。サバゲー仲間の一人に我流だけど剣を使うやつがいた。BB弾を弾く位だからきっと真似したら、すごい剣術になるはずだ。少し教わって才能無しの烙印を押されてしまったがこの際動きを知っている方が重要である。
「おや?子供?こんなところで、そんなもの、持って、どうしたんだい?私に近づいても、燃える、だけだよ?」
俺はそっとマフラーをずらす。素顔と右の頬の火傷を見ても変化のない「火狂い」に俺は剣を構える。
「騎士の、真似事なら、やめた方がいい。私を、殺したければ、燃えない、弓矢でも、持って、きたまえ。最も、金属でも、融かせる、炎の前では、あまりに、遅すぎるがね。」
そんな事は知らない。俺は「火狂い」を許せないだけで、炎に奪われたくないだけで、死にたくない何てのは静葵を止めたときに捨てている。
「あぁ、そうか。君も、炎に、包まれたいのだな?良いだろう。その願い、私が、叶えて、やるとも。同志よ。」
ふざけるな!
そう叫んだ筈だが声が出ない。奴の火の玉が俺に直撃したからだ。
「口を開ければ、喉を燃やせるのだよ。これなら、首に、手を回さなくて、いい。子供の首は、絞めずらいんだ。加減が、難しすぎる。」
俺の喉を焼き続ける火を奴は見つめる。
「あぁ、炎よ。貴方は美しい。」
恍惚とした顔を見せる「火狂い」はあのいつもの言葉を吐く。それは呼吸の様に吐息に近いものに感じた。少なくとも何かを伝えるように喋っているのとはかなり違う。
「おっと、すぐに拡げてあげよう。早く包まれたいだろう?俺のアラストールの炎は全てを燃やし尽くすが自ら拡がらないんだ。外で炎と戯れている、俺の同志の放つ平凡な炎と違ってね。」
炎の事となると饒舌にしゃべるこいつはやはり「火狂い」だ。こいつの言葉は会話ではない。これなら、比べるのもおかしいぐらい、ソフィアばあちゃんの意味不明な言語の方がよほど距離が近く感じる。意味が分かる分、こいつの言葉がどれ程独りよがりな物か伝わってくる。
意識が遠のいていく。いつの間にか俺の全身に拡げられた炎は、すぐに肌を焼いていき、俺を殺すだろう。
最後に聞くのが独りよがりなこいつの言葉で、また炎に全てを奪われていく。
こいつの消えない炎は、きっとソフィアばあちゃんの雨でも消えない。
俺はまたなにもできずに死んでいくのだろうか?
ソレハ嫌ナノダロウ?マダ、スベテヲ奪ッタ炎ハ消エテイナイ。
あぁ、嫌だ。誓ったんだ。全てを奪っていく炎なんて俺が消してやるって。
ナラバ欲シロ。オマエノ全テヲ奪ッテイク炎ヲ滅ボセル「力」ヲ。オマエノ全テヲ賭ケテモ。
何をかければ良い?お前は誰なんだ?俺は何をすれば良い?どうすれば奪われないで済む?あの「火狂い」に。
オレハオマエダ。オマエノ決意ダ。故ニオマエシカ貰ワナイ。貰エナイ。滅ボセルト誓エ!!己ヲ焼イテデモ滅ボスト!
誓うさ。お前の気持ちは多分俺の復讐心だ。俺は誰か分からない。でも、お前はきっと不知火静葵そのものなんだろう。
誓ウカ?ウケイレルノカ?コノオレヲ。
誓うさ。受け入れるよ。俺の半身を。
オレノ「力」ハオマエヲ焼クゾ?オマエハ自ラニ咎ヲ背負ウ。世界ノ不条理ヲ使イシ咎ヲ。
奪われないことを祈った俺には十分すぎる「力」さ。これで俺は炎を奪ってやる。
了解シタ。オレハ「ピルケアル」。滅炎ノ者ナリ。
OK、長いからアルな。俺もそう名乗らせてもらうよ。
静葵は不知火静葵になって名も無き少年はアルになった。不知火静葵はアルに続いてく。さぁ、やっと半人前卒業だ!
次回、「覚醒と出陣」
お楽しみに!