20話 信じたくないモノは訪れる
「外は随分冷えてきているよ。もうすっかり冬だね。」
「えぇ、本当に冷えてまいりました。お体は大丈夫ですか?。」
「あぁ、大丈夫だ。気にしなくてもいいよ。今宵はケアニスの友人として来ているんだ。」
また、さりげなく爆弾発言していくなぁ、もう!使用人の人達ガチガチなんですけど!周り見て!
必死に感情を隠しつつ会話を続けられる私は成長したと思う。
「ケアニス様のですか?。」
「そうだよ。もう五年程前になるかな。王都が焼き討ちされる事件があったろう?私のいた書物庫も焼かれたんだがその時に命懸けで逃がしてもらってね。聞けば治ったとはいえ、その時に大火傷を負ったという。それで、褒美をとらせようと父上がナイアース伯爵家を呼んだ事があって、その時からね。彼には随分と恩があるのでね。できうる限りの便宜をはかっているよ。」
「そうだったのですね。」
「あぁ、そうだとも。この前何か隠してそうだったから、お願いを聞き出し...話してもらってね。それで謁見が終わり次第こうして王城から抜け出...訪れた訳だよ。」
止めて上げてくださいな。王子様や。言い間違うふりしてうちの使用人を弄らないで。何人か倒れそうになってるから!私も頭いたくなってきてるから!
「うーん、流石エレシア嬢だね。冷静に見えるよ。」
「いえ、かなり驚いておりますよ。」
「ケアニスなら、頭を抱えて「アロシアス様...。」と唸っているところだ。」
笑い事では無いです。とにかく素が出る前に要件を聞かなくちゃ。なんかそれも狙われてるようだし。
「それで、ケアニス様のお願いとは?。」
瞬間、王子様の気配が変わった。なんか空気がピリピリしている。あれ?なんかまずった?
「うん、そうだな。そろそろ話すとしよう。要件は二つ。まず最初に、話が聞けるうちの要件だ。」
「あの、何か王子の話の聞けなくなる様な事が起こるのですか?。」
「いや、ナイアース子爵がいうには君が聞ける状態では無いだろうとのことだった。」
「私が、でしょうか。」
王族の話を無視するとかかなり無理があるような?
「使用人の者達。多分、明日の朝早くにはケアニスから伝言を受けたカプラーネ殿が到着する。受け入れる支度をして来てくれないかな?。」
「はい、かしこまりました。それではお嬢様失礼します。
ほら、行くよ。」
「「あ、あの?。」」
若いメイドさんと私の声が重なったが、スルーされて年配の使用人達が皆連れて出ていった。
「すまないね、少し国の機密に引っ掛かるんだ。ここからは君にしか聞かせられない。」
「は、はい。わかりましたわ。」
ちょっと待って、それヤバいやつじゃない?
「まずは良い話だ。今までの働きや領地が潤ってきて広げられることもあり、ナイアース領を来年には侯爵領に出来そうだ。まぁ、ナイアース伯爵が頑張ってくれたら、だけどね。」
「ということは、私が来年にはナイアース領に行けるということですか?。」
「そうだね。侯爵同士なら嫁入りでも問題無いけど、どっちかというとケアニスが伯爵になるんだ。そっちの方が君には良い話だろう?君はケアニスを好いてはいるが、愛してるのとは少し違いそうだ。」
爆弾発言の塊なんだけどこの人。これはうなずいたりしたらいけないやつじゃん!
「...いえ、そのようなことは」
「エレシア嬢が嘘をつけない性格なのはわかった。さて、緊張もほぐれたところで真面目な話だ。」
今からかわれた?しかもなんかバレてそうなんだけど。嫌な訳じゃないし、この話がつぶれると一緒にナイアース家とセメリアス家の顔もつぶれる。変なことはよしてね?王子様?
「さて、正直なエレシア嬢に質問だ。あの王都焼き討ち事件の先導者とも言える黒幕は知っているかな?。」
「えぇ、遭遇してます。火を使う魔法使いですよね?。」
「そうだ。ソフィア様が撃退したと聞いている。あの場にいたんだね。では、悪魔の心臓は?。」
「悪魔の心臓、ですか?いえ、聞いたことはありませんが。」
「...そうか、ということは一週間前のあれは想定外だったのか?...。」
なんか王子がトリップしちゃったよ。ぶつぶつ言って何を考えてるんだろ。
「とりあえず本題だ。アレーシズ公爵には近寄るな。これが一つめだ。最近は少々キナ臭い動きがあるのでね。ケアニスの大事な人を守りたいのは山々なんだが、情報を知らない以上僕は信用のおける護衛を紹介するぐらいしか出来ない。王家として、動けないんだ。」
「いえ、十分ですわ。人の本質や物の過去を見通すとさえ言われている魔眼の持ち主である王子の信用なら、国の衛兵より心強そうです。」
「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ。さて、もう一つの本題なんだが...。そうだな、うむぅ...。」
そういうとまた王子は黙りこんでしまった。なんだろう、ここまで「未来を見る王」なんて言われてる王子に黙られると不安になる。そんなに言いにくいことなの?
「心して聞いてほしい、エレシア・セメリアス伯爵。一週間程前に再び消えない炎の通報があった。幸い燃え移らない性質から燃え尽きた後は鎮火したが、外から燃えており生存は絶望的だと思われている。それでだな、その被害に会ったのが―――王都東の郊外、ソフィア様の御屋敷なんだ。」
世界から音が遠のいて、視界が暗くなっていった。




