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第45話 リルリナ大地に立つ 


 両陣の最後尾から、傷だらけの巨体が現れる。

 その異様と威容に疲弊しきった両軍はざわめきながら、つい交戦の手を止めて道を開けはじめる。

 渡守騎甲カロンアーマーは膝を引きずりながら櫂にすがり、すでに妖魔騎甲メフィストアーマーへ視線を向けることはなかった。


「失礼ながら、私も、この騎甲も、不様をさらしていますが、遠慮なく」


 大鬼騎甲オーガアーマーもまた、戦魔女騎甲モリガンアーマーが城門から出した顔などは意識の外にあり、足をひきずりながら長棍棒をふりあげる。


「騎士団長ならば! もっと気迫ある発声を! 一国を背負う王女ならば! なにがあろうとも姿勢は正して!」


「ご指導、感謝いたします」


 リルリナの声に芯が増し、誰の目にも『冥府の渡守』が含み笑ったように見えた。


「私はデロッサに守られ続けたのです……そのデロッサが武器を向けてくるならば、私は自身の成長を示さねば……この国をどれだけ守れるようになったのか、一撃一撃をもって伝えなければ……!」


 杖がわりの櫂を握りしめ、鎧か肉体か、あるいは両方の限界に訴える。


「立ちなさい渡守カロン……ここにはまだ安寧を望まず、生きあがく乗り手がいるのです!」


 老人姿の鎧はじわじわと体を起こし、ふらつきながらも背筋を正す。


 対峙する両者が踏み出した。

 双方とも乱れる足どりを気力で整えながら、徐々に加速をはじめ、やがて駆け足となって地響きを轟かせ、ついには全速力へ達すると同時に、互いの顔面をぶつけ合う勢いで打ち合う。

 両者の棍棒から火花がまき散らされ、重い爆音に両軍全部隊の心身が震える。

 ふたつの巨体は同時にはじかれ、よろめきながらも踏みこたえ、ふたたび渾身の一撃をぶつけ合うまで、互いのわずかな遅れも許さない。


 両陣営が、凄惨な打ち合いに呼吸まで縛られた。

 数度目の大爆音からつばぜり合いがはじまり、互いに武器を肩口へ押しつけて削りあい、ゴリゴリと低い音を響かせる。

 互いの渾身をむさぼり合うような力比べは上半身ごと密着させたぶつかり合いとなり、なおも深く地面をえぐり続ける。

 意地をこめて息を荒げ、全身をきしませ続けた。

 その音もやがて、わずかずつ小さくなり、ついには身じろぎもしなくなる。



 しばらくは誰もが、見守る以外の行動や思考をできなかった。

 しかし足音が決闘の場へ近づき、視線を集める。


「もうしわけありませんが、停戦を受けてはいただけませんかねえ?」


 妖魔騎甲は胸部を開けたまま、決闘者たちから少しだけ離れた位置で停止する。

 奇抜な道化姿の大騎士は苦笑し、ひらひらと手をふった。


「もう採算が合わないのですよ。こんなボロボロにされてしまっては……おとなしく撤退しますから、見逃してもらえませんかねえ?」


 実質の敗北を認める宣言だったが、渡守騎甲は応えず、大鬼騎甲と組み合ってにらみ合ったままだった。

 リルリナが機体へ乗りこむ直前の容態を見ていたアリハは、バニフィンへ小声でささやく。


「おいあれ、もう意識が……」


 バニフィンもかすかにうなずき、鎧の中では青ざめていた。

 自分が司令官代理として発言すれば、あるいは助けに近づけば、ズアック軍にも気づかれ、渡守騎甲ごとリルリナを奪われかねない。

 しかしすぐにも承諾の意志を示さなければ、望んでいた好機を失いかねない。

 緊迫した空気の中、指示もなしに背後のギアルヌ城から駆けてくる兵甲の足音に気がつき、心臓が止まりそうになる。

 アリハも力づくで抑えるべく向きなおり、兵甲の胸部を開けたまま両手をふる搭乗者をにらむ。


「停戦しますよ~お! いやあ、よかったよかった~!」


「誰だよオッサン!? ……なんだ国王様か」


 国の最高責任者が同意を示したことで、ズアックの全部隊は後退をはじめた。



 ズアック軍はわずかな兵甲のほかは大鬼騎甲と妖魔騎甲だけが残り、ギアルヌ国王マクベスは戦魔女とバニフィンたちに守られながら話をまとめる。

 隣では巨体が組み合ったままで、バニフィンはかろうじて平静を装っていた。

 しかしフォルサが最後につけ足した言葉で拍子抜けする。


「では詳細は後日に。それと……リルリナ様の采配と武勇、王女たる威風は、どこぞの『英雄姫』などと呼ばれた小娘より、よほど御立派でした……と『起きたら』伝えていただけますかね」


 バニフィンはリルリナの気絶が知られていたことにとまどう。


「あとこれ……引きはがすの、手伝っていただけます?」


 フォルサに言われてようやく、デロッサもすでに意識がなかったことに気がつく。



 西の入り江に停泊しているズアック軍の艦隊へ、ぞくぞくと鎧が撤収する。

 デロッサが大鬼騎甲の中で目をさますと、最後尾に残されていた。

 従者たちも骸骨騎甲に乗ったまま両脇に控えていて、望めば再度の離反もできそうに見える。

 妖魔騎甲が見下ろし、返答を促すように手で示した。


「ニケイラ君のギルフ艦隊は、すでに退却しましたよ?」


「最後の引きぎわまで誤る三流でしたら恐るるに足らず。ふたたび裏切ってその道化鎧を奪い、祖国へ帰れたものを……しかたありません。今しばらくは従ってあげましょう」


 不敵に『悪逆姫』がほほえみ、妖魔はやれやれと首をふり、その脚にはボロボロの魔犬がかじりつく。


「ウェスパーヤ君? 負けたからには、負けを活かす手立てを講じるのも有能な人材ではないですかねえ?」


「私はフォルサ閣下様をおなぐさめしているだけですわ! 誰かにこうされたい気分でしょうから!」


 妖魔は首をかしげつつも、脚に咬みつき続ける魔犬の頭をなでておく。



 リルリナは格納庫まで運ばれてから、引きずられる渡守騎甲の中で目をさました。

 周囲は多くの兵甲と負傷者でごったがえしている。

 床でのたうち、担架を待つ兵士も多い。

 意識のない兵士も多い。

 顔を隠され、花をそえられている者もいた。

 ズアック軍からの鹵獲品や捕虜の姿も多く、同じように重傷者から医務室へ送られている。


「バニフィン……?」


 リルリナは鎧ごと寝台へ寝かされ、意識を失った後の状況についてバニフィンから報告を受け、その周囲では多くの兵士が賞賛を積み上げる。


「そんなに早く停戦がまとまったのですか?」


「まだ油断はできませんが、ズアック連邦は現段階でもかなりの譲歩をしています」


「ふたたび攻めるより、こちらにいる捕虜を早くもどして帝国との戦いに備えたいようですね……撃退、できたのでしょうか?」


「ありえないほどの大勝利です」


 兵士たちは負傷者までもが「ギアルヌ王国万歳」の合唱をはじめ、ギアルヌ軍を祝福し、救国の王女を讃える。



 リルリナは応急手当を受けながら、まだ膨大にある事後処理についての指示を出し続けた。


「それと『戦魔女騎甲』の再調査は……なるべく早くはじめますが、まずは当座の仕事から……」


 そして自室で寝込む前に、担架をこっそりと格納庫の奥へ寄り道させる。

 壁にすがりながら祭壇の部屋へ入ると、ちょうど『戦場の魔女』の体内から搭乗者が出て来る姿を目撃してしまい、足がすくんだ。

 クローファの顔は蒼白で、目はうつろで、台座から降り立った途端、ぺたりと両膝をつく。

 その近くにいたアリハはビスフォンとなにかを言い合いながら平手打ちしたあと、クローファの頭を包むように抱きしめ、くりかえし謝った。


「ごめん……ごめんな。無理をさせちまったな。これからは、オレがもっと強くなるから……お前はもう、畑の相手だけでいいから。荒らされた畑がどっさりあるし……」


 クローファはアリハにしがみついたまま、身をちぢめて震えるばかりだった。


 リルリナは青ざめ、背筋まで冷えていく。

 まだ城中の兵士たちが万歳の合唱を続け、ギアルヌ軍の祝福を続け、勝利をもたらした女神を讃え続ける中、リルリナはひたすら、クローファの痛ましい姿におびえる。

 カラス色の威容を見上げ、幼いころのように、声を上げて泣きたい気持ちがこみあげてくる。


『あなたはなぜ、あのようなかたを選んでしまったのですか?』


 ずっと心の奥底へ抑えこんできた感情があふれてきた。

 はじめて出逢った時から。

 思いがけない再会をした時も。

 窮地を救われた時ですら。


 リルリナはずっと、戦魔女いくさまじょを恐れていた。


戦魔女騎甲モリガンアーマー』は応えない。

 ただ静かにうつむき、片膝をつく。




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