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第37話 さげすまれる奇跡


 戦魔女騎甲モリガンアーマーが近づけば、妖魔騎甲メフィストアーマーはひたすら逃げる。

 ズアック小鬼の大群が壁となり、魔犬騎甲ヘルハウンドアーマーも砲撃で牽制し、魔女の両槍は道化に届かない。


「小鬼なんかに戦魔女いくさまじょさんの槍は、あまりにもったいないですわ! その高性能が、あまりに無駄になっていますわ! お贅沢でしてよ!」


 リルリナの洞鬼騎甲トロルアーマーも補助に追っていたが、機体でも技量でも差が厳しい。


「自軍の兵士を盾に使い捨てて……!」


 妖魔騎甲は逃げまわりながら、またも反対端のギアルヌ兵甲部隊を襲う。


「君だって、兵士を捨てごまにまき散らしていたではありませんか……それとも君の兵士が、勝手に飛びこんで来たのですかねえ? 君を守るために」


 リルリナが怒りのあまりに言葉を失った瞬間、戦魔女は地獄の猟犬たちをたたき払い、飛ぶように小鬼の群れをかき分けて妖魔の背を猛追する。

 しかし大鬼騎甲オーガアーマーと従者の骸骨たちが割りこんでいた。


「兵甲は『戦魔女モリガン』を最優先で攻撃! 打つよりもしがみつくか、進路をふさぎなさい!」


 デロッサ自身も堅くかまえるだけで、しかけようとしない。

 横からギアルヌ兵甲が飛び出ても、目もそらさない裏拳一撃であしらう。

 その間にも笑う道化鎧は砲撃をばらまき、大鎌をふるい、ギアルヌの兵甲を次々と刈り取る。


「こわーい戦魔女さんがわりこんできましたけどね? 根本は変わっていませんよ。ギアルヌ軍で最もやっかいなのは『頑固姫』へ狂信的に従い、どんな戦況でも戦闘を継続できてしまう兵士ひとりひとり……そんな気色悪い軍勢の足元を刈りつくすには、妖魔騎甲が最高の相性ということも変わっていないのですよ?」



「『戦魔女モリガン』は妖魔メフィストを最優先で追跡! 兵甲部隊は『戦魔女モリガン』の移動を補助!」


 リルリナの号令で大鬼がわずかに気をとられ、クローファは隙をとらえて突破する。


「ズアック軍はこのような策しかとれないほど追いつめられています!」


 毅然と言い放ったリルリナ自身は、治りきらない肉体と機体へ魔犬二匹と小鬼たちに群がられ、引き倒される寸前になっていた。


「散りに来ましたあああ!」


 ホーリンが乗る骸骨騎甲は剣を持っているにも関わらず、頭突きで魔犬一匹を突き飛ばし、兵甲部隊と共に王女の後退を補助する。


「ちがうのであります! この半壊品はくせが強くて! 普段は間合いをまちがえても、拳や肘で殴る程度であります!」


「よくできましたー。ホーリンさんは頼もしいですよー」


 バニフィンもおびえ声でデロッサの大鬼とその従者たちへ剣をかまえたまま、いっしょに洞鬼を護衛する。

 リルリナはボロボロの体をひきずりつつ、目はフォルサを追っていた。

 戦魔女が近づくと妖魔騎甲は自陣深くへ逃げこみ、クローファの技量でも厚い大部隊に妨害されると追いきれない。


戦魔女モリガンの補助に、妖魔メフィスト以外の騎甲を抑えられたら……」


「私どもで善処します。リルリナ様はまず、お体を休めてください」


「一見して対等に近い消耗戦です……しかしすでに、戦魔女いくさまじょは多くの弱点を見せてしまっています」



 二匹の魔犬は傷が増えながらも、妖魔を補助して追い続けた。


「弱いものいじめのザコつぶし競争でしたら、妖魔メフィスト様が得意中の得意ですわ! あまりに『極端』な同時発射数のため、意識できる弾道の数が悪魔じみて多い『道化姫』閣下に出会えるまで、無能どもを誤射や自爆で生贄にしてきた悪魔の機体……高慢ちきだけあって、山盛り有能でしてよ!」


「それと、あの戦魔女の乗り手さんは、このえぐり合いについてこられますかねえ?」


「ばっちし、つめがクソ甘いですわ! あれほど高性能な鎧と技巧を持っていながら意味不明な遠慮までされまくって、腹が立ってきましたわ! あの機体と肉体は、ぜひ私と交換していただきたいですわああああ!」


 乱戦の中でも聞き取れてしまう奇抜な大声に、戦魔女がびくりと肩を震わせる。

 その背をにらみ続ける大鬼騎甲は足止めのために遅い足で追い続けながら、ゆっくりと言葉をならべた。


「あなたのような、余計な助けがなくとも、ギアルヌ軍は十分に屈強なのです。ふざけた英雄きどりのせいで、リルリナの評価がぼやけてしまうなど……不快きわまりない!」


 将軍級でも『大鬼騎甲』は標準やや下の性能で、伝説級の中でも高性能な『戦魔女騎甲』を相手にすれば、強力な砲撃と異常な機動力で一方的に倒されるしかないはずだった。

 しかし怒りの形相にみなぎる気迫で戦魔女はひるみ、小鬼と中途半端な小競り合いをしながら避けようとする。


「うろんな亡霊め……今さら起き上がって、私とリルリナの戦場を汚すつもりですか!? そのように安直な奇跡を押しつける無粋者と知っていれば、海へたたき落としていたものを!」


 巨体の鬼が肩をいからせ、足元へ群がるギアルヌ兵甲を無駄なく殴り飛ばしてかき分けてくる。


「私はかつて、その圧倒的に勇壮な姿を見て、決意したのです……私こそが戦魔女いくさまじょとなって畏怖をふりまき、勝利を決定づけると! それだけでその鎧の役割は完結し、もはや出る幕などありません! このデロッサ・アルジャジアこそが『戦場の魔女』となるのです! 姿ばかりのまがいものめ……控えなさい!」


 クローファがうっかりつぶやいた「ご、ごめんなさい」という小声は打ち合いの喧騒に埋もれていた。


 しかし大騎士フォルサは遠目からも、戦魔女の動揺を見透かす。


「あの動きは……よく訓練されているのに、飼い主を失った番犬のようですねえ? なにやら甘ったるい中身が『戦魔女』につめこまれている期待もしてよいのですかねえ?」


 静かに笑い、ゆうゆうとギアルヌの兵甲部隊を刈り取りに向かおうとした。

 しかし奇妙な鎧を見かけ、無意識に一歩、後退する。


 城から出てきた大型の騎甲は『冥府の渡守』を模した老人の姿で、自動修復速度が極端な性能であることはズアック軍の指揮官たちも知っている。

 問題はその搭乗者が、すでに二度も機体をボロボロに壊され、ひきずるように城へかつぎこまれている事実だった。


「デロッサの言葉をうれしく思います。私に与えられた奇跡は鎧ではなく、その中で戦うひとりひとりですから」


 ギアルヌ小鬼たちがどよめいて歓声をあげ、ギアルヌ骸骨の一機が頭を抱えて悶えている姿からも、同一人物のようだった。

 戦魔女騎甲の出陣よりも、兵士を狂喜させる中身が潜んでいるらしかった。




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