異世界に何でも好きなものを持って言っていいと女神様に言われたので、妹を持ってきた
「ねえ、お兄ちゃん……死ぬ前に何か言い残すことはある?」
俺の妹――エリは俺を見下すように言いながらそんなことを言い出した。
高校生になってから髪を金髪に染めて、結構口が悪くなってきたが俺にとっては可愛い妹だ。
そんな可愛い妹が俺を見下しながらそんなことを言う。
「はっはっ、妹よ。俺は確かに見下されながら罵倒されることに多少興奮するタイプの男だが、一つだけ訂正させてくれ」
「……なに?」
「俺は一度死んだ身だからな。死ぬ前にではなく死んだ後だけど、が正しいだろう」
「もういっぺん死ね!」
ゲシリッとエリに足蹴にされながら、俺は一先ず土下座を続けていた。
何故このようなことになったかと言えば、およそ五分前に遡る――
「なに、好きなものを何でも持っていっていいだと?」
「はい、どんなものでも構いません」
ゲームを買ってから帰宅中に、不運にも車に轢かれてお亡くなりになった俺は《女神の社》というところにいた。
そして、俺にそんな詐欺のような提案をするのは自称女神――ただ、銀髪美幼女という珍しい見た目をしているために、とりあえず俺はその子の言うことを信じることにした。
美幼女は嘘つかない、これ常識ね。
「何でもと言われると悩むなぁ……銃とかでもいいわけか?」
「それはもちろんです。何でもオッケーですよ」
「ミサイルでも?」
「はい」
「戦艦」
「はい」
まあ銃はとにかく、ミサイルや戦艦は俺には扱える気がしない。
そうなってくると、俺に必要なのは実用性のあるものか……。
「うーむ。悩むな……」
「時間はたっぷりありますから」
「そうだな……異世界に持っていくというよりも、どちらかと言えば残された妹に何かいい物を残してやりたいんだが」
「妹さんに、ですか?」
「ああ、俺が死んで悲しんでいるかもしれない」
「……確かに、あなたの妹さんはあなたの死に対してこの上ないほどの悲しみを感じているようですね」
何と、女神はそこまで分かるのか。
……というか、そこまで悲しみを感じているのか。
異世界にいけるよりも、いっそ現世にでも戻してくれたらいいのだが、それはできない決まりらしい。
「そうだなぁ……」
「そこまで悩まれるのなら、妹さんを連れて行ってはどうですか?」
「え、できるの?」
「何でも、と言ったはずですが」
にっこりとした表情で答える女神様。
ああ、これぞ女神の微笑というものだろうか。
俺は特に悩むことなく、はっきりと答えた。
「じゃあ、妹で――」
「それがおかしいって言ってんでしょうがっ!」
ゲシゲシ、と何度も繰り返し足蹴にされる俺氏。
「待て、妹よ。兄ちゃんこのままだとあらぬ方向へと覚醒してしまうかもしれん」
「土下座しながら何言ってんの!?」
「土下座しながら踏まれているからこそ言えることだ。お前にもいずれ分かる時が――」
「来るかバカぁ!」
そう、結果的に妹を異世界に連れて行くことに成功してしまった俺は、妹のエリから何勝手に決めているんだ、と罵声を受けていた。森の中で。
「来週テストもあるんだけど!」
「お前、見た目は結構ギャルだけど真面目だよな」
「あ、当たり前でしょ。テスト受けるのは常識だし」
「あのな、今ここは日本とは違う異世界なんだ。もうテストのことなんて気にしてる場合じゃないぞ」
「……元に戻る方法もないってこと?」
「どうだろうな……一応女神様にお願いすればクーリングオフできるかもしれんが」
果たして女神の制度にそんなものがあるのか分からないが――そもそも異世界に来てしまってから女神様と連絡を取る方法はあるのだろうか。
「やっぱり迷惑だったか……」
「当たり前でしょ!?」
「ここに来た瞬間は俺に会えて涙を流し――」
「一々言わなくていいのっ!」
「わ、分かった。お前だけでも戻れるように女神様にアポ取ってみるから……」
「え、お兄ちゃんは?」
「ん、俺は死んでるから無理だろ。転生だぞ、転生」
「いや、その転生っていうのがよく分からないんだけど……」
「俺は死んでこの世界に来た。お前は生きてこの世界に転移してきた――そういう違いだ。一度死んだ人間は元の世界には戻れないルールらしい。つまり、俺は一緒には戻れない」
「……そ、そうなの?」
「女神様の言うことが本当ならな。まあ一先ず連絡取ってみるから――」
「ま、待って」
「ん、なんだ?」
何か言いたげな表情のまま、エリは視線を逸らす。
こういうときは、エリは確かに何かを言いたい時だ。
――かといって、急かしても答えてくれないので、俺はいつものようにエリの答えを待つ。
「だ、だったら別にこのままでいいよ」
「なに?」
「このままでもいいって言ってるの!」
「いや、でも戻りたい――」
「うっさい! お兄ちゃん一人じゃ、その……この世界でもすぐ死んじゃうかもしれないでしょ!?」
「妹よ……何というツンデレ。兄ちゃんは嬉しいぞ」
「ツンデレ言うな!」
エリは俺と残る道を選ぶという。
そんなに俺のことを心配してくれるとは素直に嬉しい。
「……で、これからどうするの?」
「異世界での基本を知らんのか?」
「知らないわよ。お兄ちゃんは知ってるの?」
「漫画と小説の知識があるからな」
「知識うすっ!? そんなのでいけるの!?」
「舐めるなよ……先人に従うというのは基本中の基本だ。まず、チート能力があれば全て解決だからな」
「チート?」
「ゲームでもあるだろう。裏技みたいなもんだ。それで異世界無双といこうじゃないか」
「そのチートとか、お兄ちゃんは持ってるの?」
エリの問いかけに、俺は空を見上げる。
そしてしばらくの沈黙のあと、
「ないな!」
「ダメじゃん!?」
「すまん、何でも好きなものを持ってきていいというチート枠をお前に使ったのを忘れてた」
「! な、何よそれ……す、好きなもの? とか……そういうの……」
あれ、俺変なこと言ったかな。
エリが何故か初々しい反応を見せているが、今はそれどころではない。
チートは俺には存在しない――いや、一応チートに代わるナビゲーションアイテムは一応女神様からもらっている。
そういうのないとすぐ死んじゃうと思うんですけど、って女神様に言ったらくれた。
言ってみるもんだ。
「……と、いうことは、俺達は少なくとも異世界で無双できるわけではないということだ」
「その、無双? っていうのがよく分からないけど」
「とんでもない力を使って圧倒していくみたいな感じだ。俺はただの社畜でお前は女子高生――まず無理だな!」
「……じゃあどうするのよ?」
「第二の選択肢は、田舎でスローライフだ!」
「スローライフ?」
「そう、来てしまったからには仕方ない。一先ず平和そうな村を探してそこでひっそりと暮らすという選択肢だ」
「田舎って言われても、想像できないんだけど」
「確かに、俺とお前は都会っ子だからな」
「せめて圏外じゃないところがいい」
「妹よ。この世界はどこも圏外だ、たぶん」
まだ妹はスマホを使えると思っているらしい。
残念ながらここに電波は届いていないだろう。
「はあ……? スマホも使えないのに田舎で何するのよ」
「確かに……俺もゲームなしでは暇すぎて死ぬかもしれん。そもそも俺ら金もないしな」
「じゃあ田舎もなしじゃん」
「そうなると残るは……地道に冒険者生活だな」
「冒険者……?」
「こういう世界にはおそらく冒険者という職業がある。俺とお前で迷宮を攻略し、最強の冒険者を目指すということだ!」
「! な、何それ、ちょっと面白そう……」
おっと、珍しくエリがいい感じの反応を示している。
これはもう無双でもスローライフでもなく地道に冒険者生活が正解ではなかろうか。
「それで、冒険者って具体的に何するの?」
「まあ、基本的には魔物を狩ったり、迷宮から金目の物を持ってきたりするわけだな」
「え、それって犯罪じゃないの?」
「妹よ、お前は時折常識を挟んでくるな……迷宮に落ちてるもんは拾っても大丈夫だ。基本はな」
「そうなの……?」
「警察がいないからな。ある程度自由な生活が約束されている――それが冒険者だ」
ちなみにここまで俺の想像でしかない。
そもそもこの世界に冠する知識が乏しいからだ。
とりあえず、女神様からもらったチート枠のナビゲーションアイテムにでも聞いてみるか。
「一先ず、近くの町を目指す感じでいいな?」
「まあ、森の中にいるよりは……」
「よし、近くの町はどこにあるか教えてくれ!」
カッと天に掲げたのは、もらったナビゲーションアイテム。
ピピピ、と謎の音を立てながら、ナビゲーションアイテムがぽつりと呟く。
『近くの町は、ここから南南西の方角に百五十キロです』
「百五十キロ?」
『はい』
「Where is the neighborhood town?」
『The neighboring town is 150 kilometers from here in the direction of south-southwest』
あ、英語でも変わらないわ、これ。
――というか、英語でもいけることに驚きだわ。
「それってどれくらい?」
「フルマラソンの三倍より長いな」
「……はあ!? ここからどんだけ歩くのよ!?」
「フルマラソンの三倍歩くことになるな!」
「そ、そんなの無理に決まってるでしょ!」
「初めから無理と決めつけるな、妹よ。どちらかと言えば俺の方が体力的にきついな! だが、俺とお前なら大丈夫だ」
「何を根拠に言ってるのよ!?」
こうして、異世界に転生した俺と異世界に転移した妹の冒険は始まる――前から詰んでいたのだった。
書こうと思っていた短編ネタです。




