振舞い
始業式が終わり、今度はクラス内で親睦を深めるため自己紹介が始まった。そこでも、俺の女子を選別する審美眼はフル稼働する。
とは言えど、全員が全員分散することなく美少女しかおらず、童貞レベルの俺の眼では甲乙を付け難い。結論、クラス内も全員可愛い。
ここで読者に俺もとい桐谷雪乃の設定について話しておかねばなるまい。
桐谷雪乃――。髪はボブのハーフアップで生まれつきキューティクルが活発なので地毛である。一応軽くメイクはしているが校則的にNGなようでバレない程度。我ながら可愛いと思う。
性格は色々と迷ったのだが、あまりにもお嬢様調でいると疲れそうなので、ラフな感じで通すことに決めた。しかし、ある程度の仕草は女子を振舞う。完璧すぎるとは怪訝の対象だ。
俺の番がまわり教卓へと向かう。周りからの目がなんだか心地いい。
黒板に偽名を書き、クラスメイトの方へとくるりと向く。
「桐谷雪乃です。趣味は読書と、あとは映画鑑賞。運動はあんまり得意じゃないです。皆さんと仲良くできたらと思います」
月並みな俺の自己紹介はお辞儀で幕を閉じた。因みに読書といってもラノベしか読まないし、映画鑑賞と言ってもアニメオンリーだ。本当はゲームなりネットサーフィンなりインドアな趣味が多々あるがイメージを崩さぬようにここでは控える。
そして四人くらいが俺の後に自己紹介を済ませた後、天然ドジっ子妹属性全振りの胡桃の自己紹介が始まった。皆にはその小動物のアニマルビデオを見るかのような様を見せることは出来ないので僭越ながら俺が一筆認めて進ぜよう。
まず黒板に名前を書くだけで四本のチョークが帰らぬチョークとなった。
「し……篠原胡桃……です。身長は157㎝……体重は……47㎏」
必要のないことを言う。そして体重をカミングアウトしたことを後悔し赤面する。可愛い。
「えと……趣味は動物と遊ぶことで、あ、ハムスター飼ってます……! 名前はナッツって……言います。イチゴが大好きで食べる姿がとっても可愛いです。あ、すいません……つい夢中になって……」
好きな事となると夢中になって語りだす。その姿は小動物の如し。可愛い。
「こんな私ですがよ、よろしくおねがいしましゅ……!」
最後の最後で噛む。そして赤面する。だがそのままお辞儀をして顔を下に向けたまま逃げるように席へと戻る。可愛い。
何だろう。性的な目ではなく純粋な目でみて普通に和んでしまう。これも彼女のスキルなのか。だとしたら今ここに可愛いは正義が証明された。
そうしてクラス全員の自己紹介が終わり、今日はもう下校するだけだ。バッグを肩に下げ教室を出ようとしたその時、いきなり誰かが俺の机を叩いた。
「あなた、確か雪乃っていったわね。自己紹介はさっきしたけど私は小鳥遊 優芽。優芽でいいわ」
前髪パッツンのセミロング茶髪女子。鼻筋が通っていて日本人としては珍しい顔立ち。可愛いというよりは美人だ。
「えっと……、私に何か?」
いきなり話を掛けてくるのは別に悪いことではないが、日本人の悪いところでもありまたコミュ障を量産する原因だ。そう考えると彼女はコミュ力お化けか愚か者か。
「あなた……そのスマホのストラップ……、『薔薇百合』の舞華でしょ?」
薔薇百合とは俺の愛読する「薔薇で造った百合の造花」というタイトルのラノベだ。主人公の霧ヶ峰 裕也が女装して女子高に潜入するというどこかで見たことあるような展開の作品なのだが、実はそこの生徒が全員女装男子だったというコアな内容の作品だ。舞華とは裕也の女装時の姿を指す。
「…………! なぜそれを……」
「私もその作品が好きでね……ほら」
そういって取り出したのは俺の持つストラップと全く同じものだった。
「優芽さん……、どうか私にその趣味があること、秘密にしてくれない?」
「……一つ条件があるわ」
「……何?」
「私と友達になりなさい」
答え。コミュ力お化けでもなく愚か者でもなく、ただ人付き合いが苦手なだけ。
「……わ、分かったわ」
(よっしゃーーー!! 女子と、女子と友達になった!! ざまぁみろ、俺を舐めるな。これでこの学校の全ての女子を攻略してやる! まずはあの雪乃ちゃんからだ。必ず俺の彼女にしてやる)
小鳥遊優芽。本名は優介。中学時代は女子と友達あわよくば恋の発展を切に望んでいたが、悉くフラれてきたという悲しい男である。果たしてそんな男が雪乃を彼女にすることは可能だろうか。
読者諸君はお気付き、というより疑問に思っているかもしれないだろう。女装していることがバレた瞬間社会的処刑を言い渡されるこの環境で、どうやって彼女にするのか。知らん。
断っておくが、ここの生徒は一人としてLGBTに当てはまるものはいない。