垣間見る真実
桐谷 雪乃もとい桐谷 剛士は文字通り期待と不安を胸に詰めていた。
期待とは築き上げたも同然のハーレムに。不安は女装がばれていないかである。
もしバレてしまえば、社会的に大問題である。ただでは済まない。故に剛士は、全力で虚構の雪乃を貫き通さねばならなかった。
歩き方、言葉遣い、仕草に態度とエトセトラ。自身の理想ともいえる女子を全力で装わなければならない。
ただの女子高ならばここまでのことはしないだろう。彼をここまでさせたのはお嬢様校という環境である。
どこもかしこも見渡せば大和撫子の集まりだ。
(まさに立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花だな……)
こんな言葉があるように彼も、それらの花であるように振舞わねばならなかった。妥協は許されない。
「あの…………」
聞き覚えのあるか細い声で急に背後から話しかけられた。
「はい……? 私ですか?」
振り返ったその先には、校門前にいた泣き虫少女が立っていた。少女は両手を胸の前でそわそわさせていた。
「えと……、あなたも…………C組……ですよね?」
「え、ええ……。もしかして、あなたもですか?」
もしそうならば、少し心強かった。どんな場所に居てもどんな格好でも、仲間を作ることは大切だからだ。
剛士がそう答えると、少女は飛び掛かるように抱きつき再び泣き始めた。
「私、篠原 胡桃っていいます……。良かった……お友達になれる人が見つけられて……」
いきなり抱きつかれ、どうしていいのかわからない剛士。ただただ童貞としてのキャパシティをこえてしまいそうであった。
身体が完全に硬直し、鼓動が速くなる。
「ちょっ……く、胡桃ちゃん……どうしたの?」
「はわわわわ……。ご、ごめんなさい…………」
「い、いや……べ、別に全然大丈夫だけど……」
(ごめんなさいだ? とんでもない。もっと抱き着いてくれ)
そんなやり取りをしていると、予冷が鳴った。この子といると遅刻しかねない。
「胡桃ちゃん。いくよ……」
「は、はい……!」
俺と胡桃は自身らの教室へと向かった。
(お、俺。女の子に抱き着いちゃった……! はわわわわ……とか言ってるし、何俺キモッ……!? やっべぇ女装して勝ちだわ……)
篠原 胡桃もとい雄二は教室に入るまで背徳感と達成感の両方に浸っていた。