入学
その内この作品を作ったことを後悔するんだろうなぁ……。
桜の咲き誇る季節になり、自分はこれからの未来に胸を膨らませていた。
「ここが、百合ノ花学園…………」
周りには自分と同じ新入生が満面の笑みを浮かべながら校門へ向かっていくのが見られる。高校を背にして写真を撮る者もちらほらと窺える。
日本トップクラスの女学園とされる百合ノ花学園。女の子なら誰もが憧れる高校で、やはりお嬢様揃いのため校舎には一切の穢れがなく、足を踏み入れることすら躊躇ってしまう。
そんな念願だった高校への三年パスポートを右手に携え、桜並木に囲まれながら校門の前に今、自分は立っている。
大きく息を吸い込み、門を潜ろうとしたその時だった。
「あなたも新入生……ですか?」
背後から弱々しい涙声が語り掛けるように訊ねてきた。振り返るとそこには同じ制服を着た容姿端麗な美少女が目を潤わせながら立っていた。返事として「はい。どうしたのですか?」と訊き返すと彼女は続けて、
「あの……あそこに見えるのが、百合ノ花学園でしょうか…………?」
そうでないのなら一体あれは何だというのか。的外れな質問に少々戸惑いながらも答えた。
「は、はい……。そうですよ」
そう答えてあげると、目の前の彼女はぶわっと泣き出した。突然の出来事にこればかりは驚きを隠せない。
「ど、どうしたのですか?」
「やっと……、やっと着きました…………えぐっ。ずっと、ずっと迷ってて……ひぐっ、もう辿り着かないんじゃないかと思って……」
なんだ迷子だったのかと呆れて一人で納得する。一体彼女はどれほど迷っていたのか。訪ねると一時間半と返ってきたので、次に地方から来たのかと問うと、一駅先と返ってきた。ツッコミどころしかない。
「もうそろそろ8:30になりまーす。新入生の方々は急いでくださーい」
再び背後からそんな呼びかけが聴こえた。
「と、取り敢えず行かなきゃ……! 走るわよ!」
「えっ、ちょ……ちょっと、待ってくださいよぅ……」
入学初日から遅刻なんて恥をかくのは御免だ。校門まで桜の雨の中を一直線に走る。
「百合ノ花学園へようこそ!」
門の前に立っていた先輩達が温かく入学を迎えた。いずれ入学式で先生たちと共に歓迎されると思うが、それでも彼女たちが出迎えてくれるのは新顔を逸早く見たいからだろう。
やはりどこを見ても美少女で、皆気品に溢れている。色々と不安しかない。バレたら殺されるだけでは済まない。
神様……。夢かなったけどとんでもない地雷地帯に迷い込んでしまいました。
こうして、俺の奇妙な学園生活が始まった。