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第拾壱話

 迷宮の中は照明用の魔石が等間隔に壁に埋め込まれており、少し薄暗いが戦闘を行うに十分な明かりが確保されていた。そして、その中を課題に出された薬草や魔物の部位といった資源を確保しつつ、特定の場所で待機している試験官を倒して最奥を目指すというのが試験の大まかな説明だった。

 だがアルテは試験とは別に「アルテの視界を利用せず、俺の魔力での敵の位置の把握、攻撃は俺の魔法のみで、一つの戦闘につき10分以内に倒すこと」と俺に課題を出して来た。だが。


 『キメラ3体同時とか無理だからな!』


 「そうだね、ここまで連携のとれている相手だと君にはかなり厳しい戦いだね。

 でも狙いやすい位置への移動と相手の攻撃を避けるのは私がしているし、落ち着いて狙えば何とかなる相手だよ」


 『動きに着いていけないんだよ!てか、なんで獣なのに連携がこうも様になってんだよ!』


 3体の動きはお互いをカバーするように動くし、こちらの魔法が当たらない様に動き回っていて中々当たらない。まともに当てられたのは初撃だけだった。


 「高位になるほど魔獣は知能が高くなるからね、この位はできるよ。それに魔獣なら普通はもっと殺しに掛かってくるよ。多分領主がここの魔獣たちに手加減するように命令でも出しているんじゃないかな?

 あと、私の視界に頼らないで知能の高い敵と戦うなら、相手と私の動きを予測するんだよ。でも今の私の動きは君に合わせているからね。だから今回は相手の動きを予測するだけでいいよ。相手を観察して重心や動き方や癖を把握すれば予測はかなりの精度になるよ。あとは、魔法を打ってから相手に当たるまでの時間を頭に入れて相手の進行方向の少し先に魔法を打てば当たるし、動きが止まったり遅くなる瞬間に直接狙っても良い。弾速が速い魔法なら、相手に照準を合わせて打つだけで大丈夫。それに回避するのは私だから、相手の動きを観察することに集中できるよ。落ち着いてやれば今の君でも十分に対応できるから」


 軽く言ってくれているな。確かに今の俺はアルテの視界を使わず、部屋の中の全てを魔力を使って把握できている。そのうえ、アルテがキメラの攻撃を避けてくれている。だけど、今までの敵と違って、戦闘用に意識を変えても簡単なFPSと同じ位には速く感じる。そのうえ、今戦っている場所は20メートルの立方体程の空間で、天井や壁を使って立体的に動いて攪乱してくる。更には、火や毒を煙幕の様に使うので相手を把握するのは至難の業だ。だが、こうまで手助けして貰っていて、更には出来ると言ってくれているのだから出来る限りのことはやってみるか。


 『くそったれ、やってやるよ!』


 とりあえず広範囲だが威力の弱い雷撃の魔法を放ち動きを鈍らせようとしたが、1体のキメラが炎を広範囲に吐いて相殺してきたため意味がなかった。それどころか炎のせいで魔力が乱れて相手がみえなくなってしまう。


 「闇雲に打っても隙を突かれて此方が不利になるだけだよ。打つのならば相手を最後まで観察し、殺すための思考を止めないことだよ」


 アルテは俺に注意をしながら炎の煙幕を直ぐに回り込み、講義は続く。


 「獣だろうが人だろうが大きく動くときには予備動作があるし、急激に軌道を変えた時は次に動くときに隙ができる。単調な動きであれば進行方向を予測するのは簡単だよ。自分の一挙手一投足で相手の次にとる行動を制限し、こちらの攻撃を当てられるようにしていくんだ。

 そうだね、この戦いだけは私が指示しながら戦ってみようか。この戦いを良く覚えておいてね。相手の動きからの予測と追い込み方と避け方を特に意識しながら戦ってみて。まずは魔力で周りを捉えたまま、私の視線の先に合図したら風の魔法を打ち込んで」


 『わかった』

 

 キメラが無軌道に壁や床を蹴って動き回る中、アルテは確実に相手の動きを視界に捉えて指示を出してくる。

 アルテに言われたとおりに合図があった後に風の魔法を打つと、横から炎を吐かれ相殺されてしまい、爆炎によって視界を遮られてしまった。


 「雷を今」


 けれど、アルテはそれを気にせず魔法を指示を出し、魔法を打つのと同時にその方向に走り出した。

 苦痛に満ちた鳴き声が聞こえてくるのと同時に視界が開けると、足に雷で出来た槍に貫かれ動けなくなっているキメラがいた。


 「雷と風を今」


 キメラの頭部を雷が貫き、風の刃が首を半分以上まで切り裂いた。

 だが、致命傷を負いながらも最後の力を使い、キメラは雷で直に脳や目を焼かれながらも此方に毒の霧を吐いてきた。が、左目を焼かれ首を切られたせいで狙いが定まらず横にずれている。

 アルテはスピードを殺さずに毒が広がりきる前にキメラを飛び越え、後ろにあった壁を走り逃げ切る。


 10メートル程壁を走った後、思い切り蹴って床に飛んだ。衝撃を受け止め僅かに動きが鈍った後、即座に顔を上げた視線の先には此方に向かって飛び掛かってくるキメラが居た。


 「雷」


 アルテは僅かに体を横に沈み込む様に動かしただけで身の毛もよだつ程の豪腕を避け、雷の槍を打ち込み、顎から脳天にかけて貫いた。

 キメラの転がる音を背後に聞きながら、既にアルテの視線は最後の1体に向けられていた。


 「速射」


 キメラは狙いが定まらない様にジグザグにこちらに向かってくる。

 速射は魔力の塊を放つだけで、キメラのような頑丈な相手には効き目が薄い。だが、魔力が切れるまで打ち続けることが出来るし、弾速もかなり早く牽制には最適な攻撃だ。

 アルテは相手の動きを予想し、確実に魔力の塊を当て続けてバランスを崩させ、転ばせた。

 

 「炎」


 炎の柱が倒れたキメラを中心に吹き上がった。炎は直ぐに消え去り、黒く焦げた獣の遺体が残っているだけだった。


 「こんな感じかな。参考になったかな?」


 俺があんなに苦戦していたのに、アルテが指揮を執ってから僅か1分もたたずに戦闘は終わってしまった。

 この結果は当たり前のことだ。だけど、正直なところ凄く空しく、・・・悔しかった。

 




戦闘は難しい


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