第壱話
俺は今、暗い林の中にある泉の上で漂っている。
人魂の姿で。
信じたくなかった。だけど、360度全てを見渡すと直径5mほどの円形の泉と木漏れ日に照らされる生い茂った木や草花。そして、泉の中心に映る赤い火の玉のみ。
流石に最初は混乱した。しかし、青い空が赤くなり、それすら通り越して周りが俺の明かりが届く位置までしか見えなくなるだけの時間が経てば受け入れるしかない。
さらに全く動く事もできない上に、自分が死ぬ瞬間もはっきりと思い出してしまったのだからどうしようもない。
とりあえず現状を受け入れた今、俺はとても重大な事実に気づいてしまった。
いや、実際は分かっていたがそれの持つ意味にまで考えが及んでいなかった事実。
それは、自分の意志でここから移動することができないという事だ。
さて、こんな茶番はいい加減にやめるか
『何でこんな事になってんだよ!? これから先どれだけこんな状況が続くんだよ!』
幾ら死んだことに凹んでも!どんなに景色が綺麗でも!ほぼ一日身動き出来ずに過ごしたら飽きるんだよ!
「珍しいな、魂だけの状態で世界に溶けていないなんて」
現状の不満を叫んでいると後ろから艶のある綺麗な声が聞こえてきた。
慌てて振り返ればそこには、絶世の美女がいた。
俺は何も反応できずただ美女に見蕩れているだけだったが、相手はその間に周囲と俺を観察し終えていたようだ。
「貴方は、異世界から来たのですね?」
彼女は自分の考えを確信しているようで、尋ねるその瞳は怒りと憐憫に歪められていた。