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紅の島  作者: けんぞう
5/6

俺たちは見捨てられた

ひたすら来た道を走っていると

ようやくホテルが見えた。

今までの凄惨な光景が嘘だったかの

ようにリゾート地区は

様々な明かりに照らされていて

安堵に胸をなでおろした。


ホテルに戻るとロビーは

白いイタチの襲撃から逃れた

調査隊の人々が医者達の治療を受けていて

その中には須川の姿もあった。


「あ!善希!?生きてたのか!」

須川が問いかける。


体力を消耗していた須川は

ヒトツノジカの調査場所から少し離れた

場所で休憩をしていたらしく

逃げる人々の波に乗って逃げてきたから

辛うじて難を逃れたのだ。


「怪我はない?喰われてしまったと心配したよ!

大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫だ。怪我はしてない。」

精神的にダメージはあるが。


「心配してくれてありがとうな。悪いけど

1人にしてくれ。」


「一応治療を受けた方がいい。

それに…服が血だらけだぞ?」


「後で受ける。今は1人にしてくれ。」

そう言ってロビーを離れた。

目の前で人が喰われたことのショックが

大きくて、忘れたかった。


2回のドリンクバーで水を飲んで

心を鎮めていると、後ろから


「善希くん!」と慣れた声が聞こえた。

結衣さんがいた。

軽く汗をかいていて、走り回ってたみたいだ。

俺を探して。

「どこにいたの?探したんだよ?心配したんだよ?大丈夫?怪我は?」


「大丈夫です。怪我はないんで。」


結衣さんは沢山の質問を投げかけた。

だが今は

聞いて癒される筈の結衣さんの声すら

うけつけない。

結衣さんはそれ見かねてそれ以上は

何も聞かなかった。

ただ俺の隣に座ってそばにいてくれた。


俺はこのたまった気持ちを吐き出したくて

自ら口を開いた。


「結衣さん。俺は弱い人間なんだ。」


「なぜそう思うの?」


「目の前で多くの人が喰われた。

俺は何も出来なかった…!

それであいつらが去るのを息を殺して

待ってるだけだった!

あの時もっと早く報告すれば

多くの人が死なずに済んだのに…!」


涙が出てきた。

結衣さんはただ俺の話に耳を傾け

ずっと俺の手を握り

大丈夫、大丈夫。と言ってくれた。


「善希くんのせいじゃない。

善希くんはあの状況で皆に

逃げろって言ったんだよね?

逃げてきた人が言ってたわ。

自分に出来る事を、勇気を出して行った

善希くんは凄いよ。

善希くんは弱くない。

誰もあなたを責めたりしないわ。

大丈夫だよ。」


「だけど…俺は…。」


「それに、あんな動物がいるなんて…

学者として私たちの事前調査が甘かったんだわ。」


「この島は危険よ。今すぐにでも

マネージャーの多由弥さんに掛け合ってみる!

一刻も早くこの島から皆でた方がいい。」


そう話す結衣さんの後ろから

須川が近づいてきた。

「ここにいたのか!やっぱり心配でさ

きちゃったよ善希。大丈夫か?」


「ああ、さっきよりはマシになった。」


「そうか!なら良かった。」

すると須川は俺と結衣さんを見て

何を勘違いしたのか

「じゃあ俺は部屋にいくから…笑」

と去ろうとした。

結衣さんはなぜだか頬を赤らめている。


すると向こうから

マネージャーの多由弥さんが歩いてきて

俺に言った。

「蓮実善希さんですね?大丈夫ですか?」


「はい。幸い怪我はありません。」


「良かった。1人だけ治療を受けていない方が

いたみたいで探していたんです。」


「ああすみません、今すぐにでも行きます。」

俺が多由弥さんについていこうと立ち上がると

結衣さんが多由弥さんに話す。


「あの!多由弥さん。わたしは動物学者の

葉摘結衣といいます。単刀直入に言います!

この島は非常に危険です!

一刻も早く島の人々を脱出させて下さい!」

大きな声で結衣さんは訴える。

だが多由弥さんはこう言った。

「いえ、それはできません。」


「なぜです!?」


「今日の一件のあと上司に電話しました。

救助船をよこすようにと。

ですが会社が下した判断は3カ月間

出来るだけのことをしてくれということです。」


「会社にとって作業中の事故は

信用に関わることです。売り上げにも

響きます。

上司の意見としては

事業が波に乗っている今こそ

失態を晒すわけにはいかない。

なるべく隠せと…。

何もなかったかのように

開発と調査を続け、テーマパークを

完成させろと…。」





「そんな…!」

結衣さんは絶句したが、それは

俺も須川も同じだった。


「人の命をなんとも思ってない

屑どもの会社だな。」

須川ははっきりとそう言った。

それは俺も思う。

人が殺されているのだ。

未知の生物によって。

それを知っていて会社は

俺たちを見捨てた。

なんて会社だ。

いや俺たちバイトの人間だけじゃない

この多由弥さんも正社員なのに

島に置き去りにされてしまった。

結衣さんだって学者として

雇われているのに。

恐らくこの後辞表を書くんじゃないかな。


「とにかく迎えの船は来ません。

残念ですが…。」


この場の全員が同じ状況。

いつあの白いイタチ共に

襲われて喰い殺されるか分からない。

もう俺たちは奴らの縄張りを

犯してしまっている。

このリゾート地区に襲ってくる可能性もある。


「ですが、もしもの場合に備えて

リゾート地区の周りには頑丈な柵を設けて

あります。比較的安全です」


「安全だと!?もうすでに

調査隊の人間が10人殺されてるんだ!

安全なもんか!」

須川が取り乱す。


「仕方がないんです!ここしか

安全な場所はありません!

3か月間ここで耐えるしか道はないんです!」

多由弥さんも取り乱して言い返す。

会社にも上司に見捨てられて

心中穏やかではないだろう。

言い争う2人を結衣さんと

一緒になだめる。

2人の気が落ち着いて

ふと、窓の外に目をやると

すっかり暗くなっている。


「こうしてみると星が綺麗だよね。」


「ああ、日本じゃ滅多に見えない。」


「帰りたいなぁ…。」


結衣さんはポツリとこぼした。

結衣さんにも帰りを待つ

家族がいるんだろうな。


テーマパークエリアには

サーチライトが照らされていて

綺麗だ。

今日の一件がなければ

今頃は楽しい会話をしていただろうに。


すると結衣さんが

「ねえ?善希くん!あそこの森の中

何か赤い光が見えるよ。」


赤い光?

俺はまさかと思って結衣さんが

指差す報告に目をやると確かに

身に覚えのある赤い光が何十個も見える。

しかもそれが近づいてきている

このホテルがあるリゾート地区に。


またあの白いイタチ共が

やってきたのだ。


人間の味を覚えたヤツらは

より多くのエサを求めて

ここを見つけ出したんだ。


「まさか…あれが

調査隊を襲った…?」


「多由弥さん!今すぐここから

皆を非難させて!あいつらが来る!」

俺に言われた

多由弥さんは急いで

警報機のボタンを押して

緊急用のアナウンスをホテル中に

流した。


「緊急事態が発生しました!

ホテル内にいる全ての方は

ホテルの地下3階の非常口から

脱出して下さい!」

アナウンスを終えると

俺たちはその場を離れて

地下3階へと急いだ。







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