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紅の島  作者: けんぞう
3/6

未開の地

結衣さんと話した日の翌朝。

また彼女に会いたくて、しらみつぶしに

船内を歩き回った。

だがこの無駄に広い船内で

一人の女性を見つけるなんて難しく

結局見つけられず…、目的の島に着いたとの

アナウンスがあった。

デッキに登って島の外観を

確認すると見事な紅葉に覆われた

大きな島が見えた。

海沿いにはすでにジェットコースターの

コースらしきものが見え、

さらにその奥にはリゾート地らしい

ホテルのビル群がすでに何棟かある。

船が港に着いていよいよ

3か月のバイト生活が始まる。


早速、仕事内容の割り当てがあるとのことで

山の中を歩いてホテルをめざした。


ホテルへ到着すると部屋へと通された。

なぜかもう一人男も一緒で。

どうやら相部屋らしく、男は

俺に色々話しかけてきた。

「やあ、これからよろしくな!

俺は須川誠!23歳ね。君は?」


「俺は蓮実善希。同じく23だ。」


「同年かー!お!筋肉あるね!なんか

スポーツしてたの?」

「背大きいね!バスケしてたでしょ!?」

「どこ出身なの?」


須川は大人しい風貌の割に凄まじく喋るやつで

こっちが質問を返す前に違う質問を言う。

黒縁メガネに七三分けでガリガリな須川は

あ、こいつ絶対クラスで委員長してたよな

と他人に思わせるだけの風貌をしている。

実際そうらしかった。


須川のマシンガントークを充分に受けながら

部屋に通されて荷解きを済ますと

バイトに参加するメンバーは全員

ホテルのロビーに集められて仕事の

割り振りが発表される。


結構高そうなスーツを着た

背の高い美人が簡単な説明を始めた。


「どうも初めまして。当テーマパークの

開発部マネージャーでこれから3か月間

皆さんのサポートとお世話をさせて頂く

多由弥由加利と申します。」


珍しい名前だなと思ったのは俺だけではく

隣の須川も同様みたいだ。


「凄く美人じゃない?あの人。それに

いい身体してるなぁ。」

まあそれは否定できないと思う。

実際そう思うしね。


でも大声で言うのやめろ!恥ずい。


多分聞こえてると思うが多由弥さんは

無視して続ける。

「皆さんの役割を発表します。

現地調査。

テーマパーク開発現場作業員。

リゾート地開発作業員。

そして、

この島の生物の

生態調査の補助員。

以上の4つです。役割はもう決めてあります。

お手元の名札の裏に書いてある

役割をみて、その列に並んでください。」


俺の名札の裏には

生態調査補助員と書いてあった。

須川も同じみたいだ。

俺たちは指定された列へと並んで

指示を受けてホテルの外へと出た。

外へ出ると早速仕事内容の説明があった。


「どうもご参加頂きありがとうございます。

生態調査部門班長の江川といいます。

この島の生物達はまだ謎が多く、

テーマパーク建造にあたって…」

くどくどと長ったらしい説明を受けていると

後ろからカメラのシャッターを切る音がし、

俺は確信して振り向いた。


結衣さんがいた。また会えた。

俺は説明中にも関わらず話しかけてしまった。

もちろん小声で。


「また会いましたね。結衣さんも生態調査の

現場に出るんですか?」


「もちろん!どんな動物達がいるのか

楽しみで昨日からずっと眠れなくて…。」


そう話す彼女は本当に動物が好きな目を

していた。


「一緒の担当で嬉しいです。あの日

一緒に話して楽しかったのでまた

善希さんとお話ししたいと思ってたんです。

動物のお話し!」


あぁ…そんな話もしたな…。

結構話していると

説明が終わったらしく、

いよいよ生態調査のため森に入るらしい。

俺は荷物持ち担当だ。

調査隊は全員で30名ほどで一列で森の中に入る。

森の中はまさに未開の地という言葉が

ぴったりなほど道がなく、先頭の人が

マチェットで草を切りながら進む。

須川は俺と同じく荷物持ち担当だったが

いかんせん体力と筋力がないみたいで

すぐにばててた。


「おい。まだ歩き出して30分も経ってないぞ?

大丈夫か須川?」


「い…や!だ、だだ大丈夫だ…。」


どう考えても大丈夫そうではないこの男を

おぶろうかとも思ったが、

須川の分の荷物を持ってやることにし

須川には歩かせることにした。

本人曰く大丈夫みたいだからな。


須川から荷物を受け取るため姿勢を低くした。


その時、近くの茂みから何かの視線を感じた。


その何かは全く動かないが

じっとこちらを見つめている。

まるで餌を狙う肉食獣のように。


俺は近くにいた須川と結衣さんに言った。

「なあ、あそこに何かいないか?」


「いや、何もいないわ?何かいたの?」

「善希の見間違いだろう?多分ね」


「いや、でもずっとこっちをみてるぞ?

だってほらあそこの木下の茂みに赤い目。」


二人は木下の茂みに目をやるが

「やっぱり何もいないわよ?リスだったのかな?」


そんな筈はと思って俺も目をやるが

もうさっきの視線は感じなかった。


「気のせいか…。」

と自分に言い聞かせて須川から荷物を

受け取った直後、列の後ろから

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

と女性調査員の悲鳴が聞こえた。

皆が一斉に振り返り、

先頭にいた江川のおじさんが

その女性の元へと駆け寄り、皆も続いた。


「何があった?どうした?」

江川のおじさんが問うと

女性は頭上を指差した。



皆が一斉に上を見た。



それが死体であることは皆すぐに

分かったみたいだった。


全身の皮が剥がされ、

何かに喰われたかのように

頭部半分がなくなっており

腹は鋭く裂かれていて

切り口からは臓物が飛び出していた。

死体というよりは肉の塊から

ポタポタと血が滴り落ちており

地面を赤く染め上げていく。


よく見るとその肉の塊は元々

鹿だったみたいで、原型をとどめていなかったが

角をみて辛うじて認識できた。


発見した女性はショックのあまり

なきじゃくっておりそれを

結衣さんが大丈夫、大丈夫と言い聞かせている。


一行はその場から少し離れた所で休憩を

実施した。




ふと俺は思った。

これは何かの警告ではないかと。

何か恐ろしい生物がこれ以上近寄るなと

示しているのではないかと。


これ以上近づけば全ての人間がさっきの

死体みたいに喰われる。

そう判断した俺だったが


もう遅かった。



俺たちは恐ろしい未開の地に

足を踏み入れてしまった。









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