通学路の花
ボクが通学路として利用している道に三階建てのアパートがある。
竹で出来た塀は足しかなく、壁面は汚れやヒビやでボロボロ、階段も腐食してサビで赤黒い、いつ崩れ落ちてもおかしくない建物だ。
そんな廃墟のようなアパートにひとつだけ気になるものがある。
道路側に向けて、すべての部屋の窓に背の低い鉄の柵が張り出したベランダが設置されている。そのなかで、三階のとある部屋のベランダにだけ鉢植えが置かれていた。
二本の柵をまたぐ状態でギリギリのバランスを保っている。
そこからゆったりと植物のツタが垂れ下がり、数十枚ある葉っぱのうちの一枚だけ、『白い葉』が付いていた。
ボクが『白い葉』に初めて気が付いたのは高校に入学してまもなくのことだ。
登下校時には欠かさず見続けていると、植物のツタの成長とともに『白い葉』もじょじょに下へと降りてきていることに気が付いた。
植物は先端を伸ばす成長が普通だと思っていたのですこしだけおどろいた。
四季を経てほかの植物が成長し、枯れ、落ち、ふたたび芽吹いてゆくなかで、『白い葉』だけはいつまでもそのままだった。
アパートが崩れるのと反比例するように植物は成長しツタは伸び続ける。
そうして約三年後、卒業式を近くして『白い葉』はついにボクの手の届くであろう高さまで降りて来ていた。
好奇心に負けて、ボクはアパートの敷地への侵入を試みた。
三年経ったいまではアパートは立ち入り禁止となっている。
封鎖はされているが『倒壊の恐れあり』『立ち入り禁止』『貸地』などと書かれた立て看板一枚と膝下程度の金網が設置されているだけだった。
軽くまたいで建物へと近づく。
近くで見たアパートは建物とすら呼べないほどボロボロだった。
強く蹴れば建物を崩壊させられるかもしれない、という考えすら浮かぶ。
長居は出来ない。
垂れたツタに近づき、ツタの先端にある『白い葉』を手に取る。
ながめて、触って、折り曲げる。
白いということ以外、普通の葉っぱとなにも変わらない。なんの変哲もない植物の葉だった。
長年のあいだ気にかけていた『白い葉』の残念な結果を目にして、自嘲気味に鼻で笑った。
ふと、ひっくり返したときに文字が書かれていた。
裏面いっぱいに筆字風に赤字で『強く引く!』と。
言葉に従い期待をこめてツタを思い切り引く。
わずかな手ごたえのあとツタが軽くなる。
――罠だ。
脳裏によぎった瞬間、頭首背骨を貫く激しい衝撃を受けた。
砕けた鉢植えを頭に乗せて、ボクは気を失い地面へとたおれる。




