攻撃開始
騎士会執行委員の面々はガックリと肩を落とし、引き揚げていった。身分がすべての貴族社会だから、「騎士の身分を剥奪し、平民に落とす」と脅しておけば、土壇場で裏切られる心配はないだろう。
ただ、ドーンは不満を満面に表現しつつ、
「どうして騎士団に30%も宝石を与えるんですか。気前が良すぎではないでしょうか」
「本当に与える気はないけどね。単に、あの場の方便よ。あれくらいのリップサービスはしないと、執行委員の連中も、帰るに帰れないでしょ。とりあえず急場さえしのげれば、あとは、どうにでもなるわ」
「そうでしたか、なるほど……」
どういうふうに理解をしたのかよく分からないが、ドーンは何度もうなずいた。
その後、程なくして、ガイウスとメアリーが連れ立って応接室を訪れた。
ガイウスは、ニッコリ笑って親指を立て、
「今のところ、順調……かな。使い魔を放って調べてみたのだが、マーチャント商会ウェルシー派遣部隊は、これから昼食のようだ。ひと仕事終えてホッとしたような、ほのぼのとした雰囲気だった。攻撃するなら今だよ」
メアリーも槍をグッと握りしめ、
「親衛隊は準備ができています」
すると、ドーンは拳で力強く胸を叩き、いつでもOKとの意思表示。
中庭ではダーク・エルフ航空隊が終結し、攻撃の合図を待っている。騎士団の連中が間に合うかどうか(サポタージュの可能性も含め)、多少、不安もあるが、今が天の時、この時を逃す手はない。
「それじゃ、攻撃開始。ドワーフ傭兵を一人も生かして返さないくらいの気構えでいきましょう」
わたしは中庭に出て、プチドラを空に放った。プチドラは、空中で巨大なコウモリの翼を広げ、体を象のように大きく膨らませて、本来の隻眼の黒龍の姿に戻っていく。
「頼むわ。最初が肝心、そこですべてが決まるから」
「任せて、マスター」
隻眼の黒龍、その闇夜のような体躯は、さながら戦略爆撃機のように、敵陣に向かって飛んだ。メアリー、ダーク・エルフ航空隊も続く。
「それでは、私も現場で直接指揮します」
ドーンは喜び勇んで駆けていった。正直なところ、ドーン個人の武勇は、あまり(というよりも、全然)当てにしていないのだが、とにかく、攻撃部隊の頭数は一人でも多いほうがいいだろう。
「では、我々も、そろそろ行くか」
今度は、ガイウスが航空隊以外のダーク・エルフを連れて、持ち場に向かった。
こうして、決戦の火蓋が(言わば一方的に)切って落とされたのだった。




