G&Pブラザーズは今
借金を返せばマーチャント商会とは縁が切れると思っていたら、そうでもなかったようだ。
「世の中、金とマーケットがすべてか……」
執務室に戻ると、わたしは、思わず「エイッ」と、うずたかく積まれた書類や帳簿の山を蹴飛ばした。床いっぱいに、書類や帳簿が散らばる。後片付けは大変そうだから、そのままにして、あとでポット大臣に取りに来てもらおう。グローバル資本主義がはびこるところでは、本当に、ロクなことがない。
プチドラは、わたしをなだめるように、
「まあまあ、強欲な商売人のやり口については、『他山の石』として、今後の参考に……」
「他山の石?」
なんだか引っかかる言い方だけど、まあ、いいか。
「それよりも、プチドラ、何か、いい考えはない? マーチャント商会に頼らずに済むように。でも、住民を全員ゾンビにして食糧を輸入しなくてもよくする、みたいな、過激すぎるのはダメよ」
「そんな無茶な……」
プチドラはあきれ顔だ。もちろん、本気で住民をゾンビにするつもりはないけど(サイボーグならまだしも)。
その時、執務室のドアをノックする音がして、ドーンが両手いっぱいの書類を抱えた若い猟犬隊員を連れて現れた。
「カトリーナ様、実は、報告書の類がこれだけたまっております……が、これは、一体?」
ドーンは、最初、床の散らかり具合を見て驚いたようだ。しかし、それも一瞬のことで、すぐに、言葉を続けた。
「町の治安状況や、G&Pブラザーズの動き、そして何よりも、背信的な騎士どもの動向などをまとめました。カトリーナ様には、是非、目を通していただきたく」
G&Pブラザーズ…… そういえば、そんなのもあったっけ。
「ドーン、あのゾンビ事件のあと、G&Pブラザーズはどうなったの? 前より大きくなってるかしら」
「G&Pブラザーズ、あの生意気なシーフギルドですな。あいつらは、なぜか腹立たしい気がしますが、ますます勢いが強くなっています。詳しくは報告書をご覧になっていただけば分かりますが、今や帝国西部のシーフギルドの多くを傘下に収め、非合法のみならず、合法的な商売へも事業を拡大しているそうです」
ドーンはひととおり説明を済ませると、若い猟犬隊員を連れて執務室を出た。
「プチドラ、することは決まったわ。明日にでも、ミスティアに行きましょう」
わたしはプチドラを抱き寄せて言った。プチドラは「エッ」と驚き、
「行くのはいいけど、マスター、随分と急だね」
「ドーンが言ってたでしょ。『G&Pブラザーズが、合法的な商売へも事業を拡大している』って。マーチャント商会との取引を停止して、これからはG&Pブラザーズと組むのよ」