カトリーナ学院は通常のとおり
わたしはドーンに導かれ、帰途についた。街を一回りしたところで、事態が好転するわけではない。理性的に考えれば、むしろ、時間を空費したということで、問題が大きいかもしれない。ただし、執務室にこもっていても妙案が浮かぶわけでもなく、考え事をするには歩き回る方がよいということもある。とはいえ、今のところは、残念ながら、良策を思いつかないが……
やがて、わたしたちは、館の隣、カトリーナ学院の正門前にさしかかった。校舎までは、広大な庭園を横切っていかなければならず、ここからは、校舎内がどのような状況になっているか、よく分からない。
「こんな時でも、授業はあるのかしら」
「はい、エレン殿の話では、『学院は通常のとおり』とのことです。最近は授業に軍事教練も取り入れ、『キグチコヘイの精神を叩き込むんだ』とか……」
でも、まさか学院で敵の「タマ」に当たることはないだろう。それに、そう簡単に「シンデ」もらっても困るし、そもそも、修身と軍事教練を取り違えてはいないか?
疑問点は多々あるが、それはさておき、
「ついでだから、ちょっと、寄っていきましょう」
わたしはドーン(及びプチドラ)を伴い、カトリーナ学院の正門をくぐった。
前庭を抜けると、校舎の前では例によって、魔法の実技指導中。今日もメアリーは親衛隊の訓練のようだ。マリアが相変わらず、「まずは、気合でオラオラと……、それから、パァ~っと力を入れて……、そして、最後にエイヤと……」などと、情緒的で、多分、本人にしか分からない説明をしている。
わたしはマリアに声をかけ、
「精が出るね。どう? この子たち、上達した?」
「はい、かなり腕を上げました。でも、まだまだ、魔法使いを相手に空中戦をするレベルではありません」
エルフ姉妹としては、何があっても魔法科の生徒を前線に出すつもりはないらしい。そのために、あらかじめ予防線を張ろうというのだろう。
すると、ドーンが苦々しい顔をして、
「マリア殿、ひと言、言わせてほしいのだが、今が非常時なのは分かっておられると思う。エレン殿だって、授業に軍事教練を取り入れたりして、いざという時のために備えているのに、能力のある魔法科の生徒がこれでは、他の一般生徒に対して示しがつかないのではないだろうか?」
「そうですね、でも、一般生徒のそれは、『匹夫の勇』です。無駄に命を散らすことはないわ」
「は? 『ヒップ』ですか?? 真面目な話ですか???」
ドーン、下らないオヤジギャグをかましている場合じゃないって……
マリアはわたしの方に向き直ってニッコリと微笑み、
「心配ありません。すぐに、その…… 援軍ではないのですが、とにかく、大丈夫です。」
この前も同じようなことを言ってたけど、一体、どういう意味だろう?




