戦時下の町
騎士会執行委員長がポット大臣に宛てた手紙は、これだけあからさまに共謀の内容を書き連ねてあれば、謀反の証拠として十分なものだろう。ただ、今は、騎士団、マーチャント商会、混沌の勢力に攻め立てられ、言わば「タコ殴り」にされているに近い状態。合法的手段として帝国法務院に訴えるとしても、ミーの町を騎士団やマーチャント商会に包囲され町の食料が尽きようかという現状では、その余裕はない(別の活用方法を考えよう)。
わたしは、ふと、プチドラを抱き上げ、立ち上がった。
すると、ドーンはわたしの顔をのぞき込み、
「カトリーナ様、どうされました?」
「いえ、別に。なんとなく、気分転換に、外に出て見ようと思って……」
「でしたら、お供いたします。このところ、何かと物騒になりましたから。いえ、けっして、危ないとか、治安が悪いとか、そういう意味ではなく……」
余計なことは言わなくてもいいのに。本当に、ドーン、嘘がつけないというか、バカ正直な男。
「だったら、お願いするわ。ついでに、道案内も、よろしく」
「お任せ下さい」
ドーンは拳で胸をドンと叩いた。
町に出てみると、やはりドーンの言うとおり、治安は良くないようで、大通りでも人はまばら。しかも、街路のあちこちで猟犬隊員が武器を持って立番し、少ない通行人を鋭い視線で監視している。すなわち、これくらいのことをしなければ、いつ住民の不満が爆発するか分からないという、独裁政権末期の危機的状況に陥ってしまったということ。
わたしは歩きながら、思わず、
「そのうちに、大規模な住民反乱が発生したりして……」
すると、ドーンはギョッと目を丸くして、
「カトリーナ様、何を弱気なことを! 町の治安については、我々猟犬隊が責任を持ちます。したがって、カトリーナ様には、なんとかして騎士団やマーチャント商会を撃退する方法を考えていただかないと……」
「そうね。何か良策があればね」
とにかく、こちらの食糧が尽きる前に現状を打開する手段が見つからなければ、ゲームオーバー。騎士団の謀反の証拠を手にした今は、隻眼の黒龍、エルフ姉妹、親衛隊、猟犬隊を総動員して反撃することに、なんの気兼ねもいらない。ただ、マーチャント商会、騎士団、混沌の勢力の兵力を単純に集計するとどのくらいだろうか。正々堂々、正面からぶつかって、(単純に勝つか負けるかの二分法とすれば)負けることはないとは思うけど、もう少しエレガントな手段は……
住民は、物陰からこっそりと、恨めしそうな目でわたしをにらみつけていた。この町の統治者の姿かたちを正確に覚えているとは思えないが、怖い怖い猟犬隊のトップ、ドーンを従えて歩いている者が誰かは、推測がつくのだろう。
「もういいわ。帰りましょう」
「分かりました。では、帰り道を案内いたします」




