ポット大臣の自白
ドーンが取り出した手紙には、ポット大臣と騎士会執行委員長のやりとりが書かれていた。どのようにして見つけたのか知らないが、猟犬隊も意外とまともに防諜組織としての仕事をしているようだ。
手紙の内容は、腹立たしいことに、「ポット大臣が我々の側につき、あの性悪の小娘の極悪非道ぶりを示す証拠を集めてくれれば、巨額の礼金を約束する」とか、「このまま圧力を加え続ければ、いずれ、あの性悪な小娘も音を上げるに違いない」とか、「証拠が揃ったところで訴えて、貴族の身分を剥奪し、あわよくば奴隷として売り飛ばそう」とか、公序良俗違反も含め、言いたい放題。
わたしはキッとポット大臣をにらみつけ、
「こんなことをして、どうなるか分かってるんでしょうね」
「ひぃ~~、どうか、命ばかりはお助けを…… これは実は、騎士会執行委員長から一方的に送られてきたもので、私は、あなたさまのことを、『性悪の小娘』とか、『薄汚い魔女』とか、そんなことを思ったことは、一度として、ありません~」
「やっぱり、あなたもそう思ってたのね。絶対に許さないから」
わたしは「ふぅ」とひと息。「語るに落ちる」とは、このことだろう。
ポット大臣は、目を大きく見開き、土気色になって、
「どうか、どうか、お許しを、カトリーナ様!」
この場でポット大臣が自白したところよれば、騎士会執行委員長とポット大臣は実は古くからの友人であり、大臣は、「専ら公益的な動機」により今回の騒動を血を見ずに収拾するため、独断で水面下の交渉、すなわち、定期的な手紙のやりとりを行っていたそうだ。
「とりあえず、ポット大臣を地下牢にでも閉じ込めときなさい」
「分かりました。早速、そのとおりに」
ドーンが合図を送ると、配下の猟犬隊員は、ぐるぐる巻きにされたポット大臣を引きずって執務室を出た。
「どうか、どうか! 命ばかりは!!」
ポット大臣の必死の訴えが、廊下から執務室に響いていた。
執務室にわたしとドーン(加えてプチドラ)以外にいなくなると、ドーンはわたしに近寄り、耳元で、
「カトリーナ様、どうしてポット大臣を生かしておくのですか?」
「生かしておくと決めたわけじゃないけど……」
どうしても大臣を死刑にしなければならないわけではないし、もし処刑すれば、大臣クラスの重臣の裏切りが明らかになり、味方に動揺を来たすかもしれない。ドーンは考え方が単純に過ぎる。
「ぶっ殺すだけが脳じゃないわ。それに、生かしておけば、何かの時に使えるかもしれないから。だから、拷問や虐待は禁止。脅かす程度なら構わないけどね」
「そうですか。う~ん、そんなものですかねぇ」
ドーンは、いかにも残念そうな顔で言った。




