食糧が底を尽きかけ
食糧が底を尽きかけ、住民の生活にも影響が出ていた。ポット大臣の表現による超ウルトラハイパーインフレのほか、わずかな食糧をめぐって窃盗、強盗、殺人、その他諸々の犯罪が発生。さらに、ほんのごく一部ではあるが、猟犬隊員の中の不心得者が職権を濫用して、住民から食糧を取り上げたり、転売で私服を肥やしたりして、町の秩序も徐々に失われていく。また、時々思い出したようにやってくるラードと元メイド長の空襲によって、町が破壊され、住民の間で死傷者が増えていくと、それに比例して、住民の「お上」への不信感も増大していった。
ドーンも元気がない。猟犬隊の士気も低下し、最近では脱走を企てる者も現れたとか。発覚した場合、見せしめのために公開で殴り殺しているらしい。ただ、宝石産出地帯は死守しているようで、これだけは救いだ。
エレンも執務室に押しかけ、
「カトリーナさん、一体、どういう状況になってるの!? 学院でも、このところは、え~と、え~と、とにかく、大変なのよ。分かるでしょ。早くなんとかしてもらわないと!」
「非常にまずいというか、ややこしい状況なのよ。なんとかしようとは思ってるんだけどね。騎士団やらマーチャント商会やらラードやら元メイド長やら、困ったことに……」
なんとかしたいのはやまやまだけど、今はどうにもならない。
エレンは両腕でわたしの両肩をつかみ、
「いざとなったら、カトリーナ学院の生徒でウェルシー防衛隊を組織して、先頭に立って戦うから」
最近、エレンのキャラが変ってきているような……
先頭に立って戦うにせよ、タダの子供を組織しても仕方がない。魔法戦隊が実戦に投入できるレベルに達していれば、ある程度……ああ、その手があった。
わたしはプチドラを抱き、急いでカトリーナ学院に向かった。魔法戦隊で、ある程度ラードと元メイド長を抑えられれば、いくばくかの足しにはなる。
学院の中庭、校舎のすぐ前のところでは、マリアが魔法の実技指導をしていた。マリアは身振り手振りを交えて懸命に説明しているみたいだけど、魔法科の生徒は、なんだかよく分からなさそうな顔。
わたしがマリアに声をかけると、マリアはニッコリとして、
「あら、よくいらっしゃいました。姉は親衛隊の訓練中なので、今日もわたしが」
「メアリーはいないのね。でも、いいか。実はマリア、折り入って相談なんだけど、早い話が魔法戦隊を……」
すると、マリアは、わたしが最後まで言い終わらないうちに、
「ダメです。今の魔法戦隊の技量では、空戦でまったく勝ち目はありません」
魔法で内心を読んだのか、あっさりダメ出しされてしまった。しかし、マリアはわたしの耳元でささやく。
「心配いりません。今は苦しくても、そのうち、救世主と言うと大袈裟ですが、助っ人みたいな人たちが、きっと……」
なんだろう。絶対無敵のスーパーヒーローが助けに来てくれるなら、こんな楽なことはないのだが……




