騎士会の見解は
この前のポット大臣の話では、平時のデモ行進は構わないということだった。反対解釈すれば、戦時ではデモ行進は許されないことになる。でも、ポット大臣は腕を組んで「ウーン」と唸り、
「戦時には争議行為は許されず、指揮系統につきましては、カトリーナ様が総司令官ということになります」
「だったら、違法なデモ行進なんか、即刻、解散よ」
「ですが、今が『戦時』に当たるかどうかは微妙なところがありまして……」
なんだかよく分からない官僚の答弁みたいな言い回し。一応、ポット大臣は官僚でもあり、そういう言い回しをすることに不思議はないが、聞いていると、だんだんイライラしてくる。
「とにかく、『デモの解散命令』を出すから、誰かに届けさせて頂戴!」
「分かりました。仰せのとおりに」
ポット大臣は、わたしの機嫌が悪くなったのを察知したのか、恭しく一礼すると、そそくさと執務室を出た。
騎士団にデモの解散を命じたものの、現実は、ポット大臣の言うように、なかなかうまくいかなかった。
騎士会執行委員長からは、すぐに手紙が届けられた。
その内容を要約すると、「ウェルシーの全騎士を代表する騎士会としては、現在のところ、戦時には至っていないと判断している。理由は、①現在、どの国からも、ウェルシーに対する宣戦布告は発せられていない、②現在、どの国の正規軍も、ウェルシーに対する軍事行動を行っていない、③マーチャント商会の部隊がウェルシーを訪れたのは、商用目的であると承知している、④宝石産出地帯が騒がしいと聞いているが、宝石産出地帯は、現在、ウェルシー伯の責任において直接統治が行われているところであり、したがって、外敵の排除等、宝石産出地帯の維持・保全は、ウェルシー伯の責任において行われるべきである。以上」
ポット大臣に手紙を見せると、「やっぱり」というように肩をすくめ、
「困りましたな。騎士団が『戦時ではない』と判断しているのであれば、こちらから強制するわけには……」
「どうして? 戦時か平時の判断権は、わたしにあるのではないの?」
「いえ、法的な話をしますと、判断権は皇帝陛下にあり、争いがある場合は帝国法務院で判断されます。そもそも諸侯と騎士は皇帝陛下の前では平等でございまして、騎士に対して好き勝手に命令を下すということは、法的にはできないものであり……」
「分かったわ。しょうがいないわね」
すると、ポット大臣の顔がパッと明るくなって、
「お分かりいただけましたか。ここはひとつ、騎士会とは仲直りして、この難局に協力して当たるのが得策ではないかと思うのですが……」
もしかしたら、ポット大臣、裏で騎士会とつながってたりして……




