「国難」に当たって
ドワーフたちは輪になって、何やらガヤガヤと話し始めた。ドワーフの言葉を使っているのだろう、何を言っているのかサッパリ分からない。ただ、みんな一様に険しい表情を浮かべていることから、簡単な話ではなさそうなことは、容易に想像できる。
やがて、そのうちの一人が、わたしの方に何歩か歩み寄り、
「実は、我々にも事情がありまして、本日の話については、こちらの要望をお伝えするという形で、後日、継続協議とさせていただきたい」
どんな事情かは分からないが、元メイド長(すなわち軍監)が町に攻撃をかけてきたことが関係しているとすると、マーチャント商会ウェルシー派遣部隊の内部も、あまりうまくいっていないように思われる。そうであれば、こちらにとっては好都合だ。
「継続協議は構わないけど…… ただ、誰を相手に交渉すればいいか分からない、みたいなのはやめてほしいわ」
「その点は問題ない。約束できる。内輪の事情で申し訳ないが、いずれまた……」
ドワーフたちは、そそくさと立ち去っていった。
「一体、なんだったのでしょう」
ポット大臣も、ドワーフたちを見送りながら、あきれ返っている。
「知らないわ。何か誤算があったことは確かだと思うけど」
考えられるのは、元メイド長が総司令官の命令を無視して、勝手に、ミーの町にゲリラ的な攻撃をかけてきているということ。総司令官及びドワーフ傭兵の全体的なムードとしては、派手に戦火を交えたくないように見える。わたしへの復讐以外は頭にない元メイド長とは、波長が合わないのかもしれない。ドワーフたちが元メイド長を命令違背の罪で片付けてくれれば、こちらとしては助かるのだが……
「うまくいってないのは、どこも同じみたいね」
「ええ、それは確かに。ついでに申し上げますと、我が方……か、どうか…… とにかく、騎士団は、この2、3日のうちに、ウェルシーに到着するそうです」
こちらの騎士団といったら、この大事なときに、ラードの口車に乗せられたのか知らないけど、国防をほったらかしにして、自分たちの権利ばかり主張するんだから。国がなくなれば権利もへったくれもないというのに……
「国難といってもよい状況なのに、本当に、なんと言いますか……」
ポット大臣の頭は、気の毒なことに、以前にも増して薄くなっているようだ。
それはそれとして、現状が「国難」ということなら、
「つまり、今は『戦時』に当たるということでしょ。だったら、法的に騎士団のデモ行進を中止させることができるんじゃない?」
「確かに『平時』とは言いがたいと思います。であれば、理論的には可能かとも思いますが、ただ、え~っと、どうですかね?」
ポット大臣は苦笑しているようだ。微妙な言い回しだけど、まだ難しい話があるのだろうか。




