話し合いの最中に
ドワーフたちは、一応、口頭では「戦闘を避け、できれば話し合いで決着をつけたい」と言っている。マーチャント商会の目論見は、いきなり巨人兵を差し向けて、本気で滅ぼそうというのではなく、とりあえず勢威を示してこちらの翻意を求める(脅す)という、「砲艦外交」のようだ。
よくよく考えてみれば、これは無理もないこと。今のわたしは、ウェルシーを不法占拠しているのではなく、皇帝より正式にウェルシー伯に任じられている。いくら強大な財力を持っていても、マーチャント商会は、所詮、平民に過ぎず、基本的には平民の分際で貴族に弓を引くことは許されないはず。
「ただ、あなたたちに『平和』を口にする資格があるのかしら。国境を侵し、国境警備の要員を多数殺害したことは犯罪よ。どういうふうに、落とし前をつけてくれるの?」
「その件につきましては、総司令官も大変心を痛めております。我々としましては、平和的な話し合いを呼びかけたのですが、いきなり攻撃を受けましたもので、止むを得ず反撃した、と、こういうわけでございます」
正当防衛を主張したいらしい。「先に手を出したのはどちらか」と言い合っても、水掛け論に終わるだろう。とはいえ、こちらから不用意に手を出さなければ、マーチャント商会から積極的に攻撃を仕掛けることはできないようだ。であれば、今回は皇帝の権威に助けられたことになる。
でも、ひとつだけ、矛盾というか、例外というか……
ひゅ~~~…… ずど~~~ん……
突然、激しい炸裂音が響き渡り、執務室がミシミシと揺れた。この前と同じように、ラードと元メイド長がゲリラ的に破壊工作を行っているのだろう。ドワーフたちは「なんだ、なんだ」と、互いに顔を見合わせたが、よく鍛えられているらしく、狼狽しているようには見えない。
「また来たのね、あいつら…… プチドラ、頼むわ。メアリーも自分の判断で迎撃に向かうと思うから」
「任せて、マスター」
わたしは執務室の窓を開け、プチドラを空に放った。プチドラは体を象のように大きく膨らませ、本来の隻眼の黒龍の姿に戻っていく。
「ほぉ~、これが噂に聞く隻眼の黒龍ですか。一度、手合わせをお願いしたいものですな」
隻眼の黒龍を見て驚かないとは、このドワーフたち、自分の技量にかなりの自信を持っているようだ。さすがに戦争屋、すなわち傭兵だけのことはある。
それはさておき、わたしはドワーフたちに向き直り、
「話し合いには応じてもいいけど……」
「おぉ、話が分かる。さすがは名君でございますな」
「話し合いの前に、今の騒ぎの元凶をなんとかしてくれないかしら。あなたたちの軍監でしょ」
すると、ドワーフたちは、一瞬、顔をしかめ、
「それは確かに…… いや、しかし……」
急にドワーフたちは黙ってしまった。一体、なんなんだ???




