マーチャント商会の使者
マーチャント商会と騎士団による包囲の輪はじわじわと狭まり、宝石産出地帯では猟犬隊が押され気味。証拠はないが、マーチャント商会と騎士団と混沌の勢力が裏でつながっているように思えてならない。晴天とは裏腹に、わたしは執務室で陰鬱な気分。
一応、こちらには隻眼の黒龍とエルフ姉妹という切り札がある。猟犬隊と親衛隊を加え、マーチャント商会の傭兵軍団と騎士団と混沌の勢力に対してクラウゼヴィッツの「絶対戦争」を行えば、どうなるか。多分、勝てるとは思う。ただ、戦いには勝てても、それでどうなるか。騎士団殲滅に関して帝国政府への申し開きをせよ、みたいな話になれば面倒だし……
「失礼いたします、カトリーナ様」
ポット大臣が青白い顔をして執務室に入って来た。
「どうしたの?」
「マーチャント商会の使いの者が、カトリーナ様に面会を求めているとのことです。もちろん『出入り禁止令』がありますから、今は、町の外でお待ちいただいていますが。」
「使い? また、あの元メイド長が来たの? ハッキリ言っちゃうと、ウザイ」
「いえ、そうではないようです。重武装のドワーフが数名ということですが」
「なんだろう。ひょっとして、元メイド長が軍監を解任されてたりして…… でも、まさかね。いいわ。とりあえず、話だけは聞きましょ。使いを通して頂戴」
「かしこまりましてございます」
ポット大臣は一礼して執務室を出た。
しばらくすると、ポット大臣に導かれ、重武装のドワーフ5人がゾロゾロと執務室にやって来た。ずんぐりとした体つきに、ヒゲもじゃの顔、絵に描いたような典型的な姿だ。見栄えはよろしくないが、堂々とした態度と精悍な面構えは、まさに歴戦の勇士といった感じ。国境警備の猟犬隊では歯が立たなかったのも無理はない。こんなのが1万人とか2万人とかいるとなると、バカ正直に正面から戦いを挑むのは、あまり得策ではないかも。
ドワーフたちは恭しく一礼し、そのうちの一人が口を開いた。
「我々は、マーチャント商会ウェルシー派遣部隊にございます。この度は、お互いに不幸な行き違いがあったように聞いておりますが、我々としては平和を求めておるのであり、無用の血は流したくない」
「同意見よ。わたしは絶対的な平和主義者だから」
「平和主義者なら話は早いですな。総司令官オットー・フォン・クーゲルシュライバーの名において、貴国には、是非、冷静な対応をを求めたい。そのうえで、懸案事項についての協議を願いたいのです」
「なんだか分かりにくいけど、要は、『降伏したうえで、この前に出した絶縁状を撤回し、今までのようにマーチャント商会と取引せよ』ということ?」
「いやいや、我々は何も、戦争しに来たわけではないのです。ただ、『絶縁状』の件は、是非とも考え直していただきたい。ウェルシーとマーチャント商会の共存共栄こそ、我々の望むところなのですぞ」
戦争屋の分際で、よくもまあ、ぬけぬけと……




