突然の空襲
マーチャント商会の軍団が領内に侵入ということは、これはいよいよ本格的な戦争状態に突入と見るべきだろうか。ただ、巨人兵を雇える財力があるのに、ドワーフで済ませるのはなぜだろう。それほど本質的な点ではないが、少し気になって首をひねっていると、
「巨人兵の報酬がものすごく高くて、兵糧も、通常の何倍も必要になりますから」
メアリーが言った。わたしは「なるほど」と納得。仮に実力行使によりマーチャント商会とウェルシーの関係を旧に復することができるとしても、巨人兵を使うのでは足が出るということだろう。すなわち、費用対効果という問題。マーチャント商会は「何がなんでもウェルシーを完全に制圧し、宝石産出地帯を我が物にしよう」とは、考えていないようだ。
ただ、巨人より戦闘力が落ちるドワーフでも、1万人とか2万人以上で来襲するとは思わなかった(せいぜい3~5千人程度かと)。今更後悔しても遅いが、マーチャント商会を甘く見すぎていたかもしれない。
その時、
ひゅ~~~…… ずど~~~ん……
突然、激しい炸裂音が響き渡り、執務室がミシミシと揺れた。
「なっ、なに!?」
わたしはバランスを崩し、危うく倒れそうになった。
「ちょっと、どうなっているか見てきます」
メアリーは窓を開け、槍に横向きに座り、フワリと中に浮き上がった。そして窓から外に飛び立ち、偵察に向かう。
「わけが分かりません。カトリーナ様、一体、どうなってるんでしょうか?」
ドーンも混乱して落ち着きを失っているようだ。「どうなっているか」なんて、わたしに分かるはずがないだろう。
「禍々しい魔力が二つ……」
と、メアリーと入れ替わるように執務室に入ってきたのは、マリアだった。
「マリア、どうしたの? 『禍々しい魔力』って?」
「具体的には、顔面核爆発のハーフ・オークと、うらぶれた元メイド長です。空を飛び、町中を無差別に魔法攻撃しているようです」
ラードと元メイド長のデュエットとは、どういうことだろう。たまたま一緒になっただけなのか、あるいは、騎士団とマーチャント商会が手を組んだのか……
それはともかく、
「メアリー一人で大丈夫かしら。プチドラ、お願い」
「任せて、マスター」
わたしは窓からプチドラを空に放った。プチドラは空中で体を象のように大きく膨らませ、本来の隻眼の黒龍の姿に戻っていく。ラードと元メイド長がチームを組んでいたとしても、メアリーとプチドラなら適当に追い払えるだろう。
ただ、話は段々と混迷を深め、どんどんとわけの分からない方向に進んでいくような……




