陰謀家と事務屋
ドーンを見つけたついでに、執務室で留守中のことをきいてみると、
「実は、けしからぬことがありまして、騎士団の連中といったら……」
「ああ、『宝石の分け前をよこせ』って、要求書を持ってきた話でしょ」
「そうです。本当に不埒なヤカラですな。これは主君に対する反逆ではないかと思うのですが、そのような不忠者を成敗することについては…… え~っと、これは……」
「これは…… なんなの?」
「え~っと、これは……ですね……」
ドーンは言葉につまり、ポケットに手を突っ込んだ。そして、ポケットから小さく折りたたんだ紙片を取り出し、
「え~っと、ゆえに、かかる叛臣を誅するは天の命ずるところにして、不倶戴天の回転木馬……えっ?」
「あはは…… あんた、自分で何を言ってるか、分かってるの?」
わたしは思わず吹き出した。ドーンがポケットから取り出したのは、多分、エレンが作った発言メモだろう。
ドーンは、ばつが悪そうに頭をかきながら、
「とにかく、騎士団の連中をやっつけなければならないのです」
「分かったわ。連中をどうするかは、これから考える」
ドーンは気恥ずかしそうに頭を下げ、執務室を出た。おおかた、エレンがドーンに吹き込んで執務室まで向かわせたのだろう。何やら画策しているのだろうか。エレンも意外と油断ならないかも……
しばらくすると、ポット大臣が数名の事務員に書類や帳簿の入った袋を幾つも持たせ、
「お待たせいたしました。会計関係の書類や帳簿は、これで全部でございます」
「早かったわね。ありがとう」
書類や帳簿は膨大な量で、うずたかく積み上げられている。これをいちいちチェックしていくのは、面倒な作業になりそうだ。ひととおりのことについては、よく知っている人にきくほうが早いだろう。
「ねえ、ポット大臣、簡単なテストをします。現時点におけるこの国の経済状況について、5分以内で述べよ」
「はっ、はい!?」
ポット大臣は直立不動の姿勢になって説明を始めた。その説明によれば、わが国の主要産業である宝石産業の復興は順調に進んでおり、現時点では混沌の勢力との戦争前の水準に戻っているが、その他に目立った産業はなく、耕地面積が少ないことから農業も振るわない。わが国経済は、宝石を輸出して食糧を輸入するという基本構造となっており、マーチャント商会の隊商が宝石・食糧の売買・運搬・輸送を行っているとのこと。
「以上でございます」
ポット大臣はハァハァと荒い息遣いで、額の汗をぬぐった。
大臣が事務員を連れて執務室を出ると、プチドラは机の上の砂時計を持ち上げ、
「ポット大臣は事務屋としては優秀なんだね。計ってみたら、きっちり5分だったよ」
と、ちょっぴり感動的に言った。