マーチャント商会の逆襲
「まいった、まいった……」
「マスター、どうしたの? さっきから、同じことばっかり」
「だって…… とりあえず先に騎士団を片付けておけば、少しはマシだったかも……」
今になって後悔しても遅いのは分かっている。でも、今は愚痴のひとつでも言いたくなってくる状況。
もし、騎士会の要求を100%受け入れてやれば、騎士団は(とりあえずラードを無視するとして)なんとかなるかもしれない。その場合、騎士団をマーチャント商会に対する防衛に当て、親衛隊と猟犬隊で手早く混沌の勢力を撃滅、その後に全兵力でマーチャント商会と戦うことになろうか。ただ、騎士への恩賞の支払いを覚悟しなければならないし(足元を見た騎士会が要求を吊り上げることもありそうだ)、そもそも作戦行動が予定どおりに進むとは限らない。
その時、不意に執務室のドアが開き、ドーンが飛び込んできた。
「何度も申し訳ありませんが、カトリーナ様、またまた大変なことに!」
「大変って、どうしたの? 今度はドラゴニア候がなんの脈絡もなく攻め込んできたとか……」
「そうではないのです。今までの出来事の延長線上のことと言いますか、とうとうマーチャント商会が本格的に攻めてきたのです」
「あっ、そう、ようやく来たのね。だったら、そんなに大変というほどでもない……ということもないか……」
「はい? あ、あの、カトリーナ様?? 一体、何を???」
「なんでもないわ。独り言」
我ながら、何を言っているのかよく分からなかったりする。
「カトリーナ様!」
今度はメアリーが珍しく大きな声を上げ、執務室に飛び込んできた。駆け足で来たのだろう。頬がほんのりと赤い。
「マーチャント商会が攻めてきたと聞きましたが……」
「そうらしいわ。詳しい話は、まだ聞いてないけど、ドーン、どうなってるの?」
「実は、正確性には問題がないこともないのですが、報告によれば……」
なんだか頼りない感もあるが、ドーンの話によれば、国境警備の任に当たっていた猟犬隊がマーチャント商会の傭兵部隊と交戦し、(当然ともいえるが)猟犬隊は多大な被害を出して撤退したという。敵の兵力は、ドワーフばかりで1万人あるいは2万人以上(厳密に数えたわけではないので、当てにならない)とのこと。
すると、メアリーは、なぜか、ホッと胸をなぜ下ろし、
「そうですか、その程度ですか。ならば、まだ……」
「どういうこと? 『その程度』って……」
「マーチャント商会は、巨人の国から巨人兵を雇うこともできました。それがドワーフ傭兵ならラッキー、いえ、不幸中の幸いです」
本物の「巨人」兵に団体さんで来られたら…… さすがにそれは怖いかも……




