仮面の男の正体
仮面の男は、シャリンという音を立て、錫杖で力強く床を突いた。
「グワッハッハッハッ! いかにも私はキム・ラードだ。どうだ、驚いただろう」
ラード以外にないと分かっていても、改めて本人から宣言されると、まったく驚かないわけにはいかない。
「よく生きていたわね。マンガみたいだわ。顔と同じようにね」
「ほざけ! この私が、あの程度の炎でやられるとでも思ったか!? 炎に包まれた瞬間、テレポートで一時的に撤退しただけだ。そうとも知らずに、キサマはおめでたい女だ!!!」
「それで、ひどかった顔が、さらに破滅的に破壊されたのかしら」
するとラードは錫杖をわたしの咽元に突きつけ、
「キサマ、調子に乗りすぎると、そのうち泣きを見るぞ」
仮面のために表情から読み取ることはできないが、内心では相当に憤慨しているのだろう。もっとも、表情から読み取ろうという気にはならないが……
その時、何の前触れもなく……
「あらら…… 下品な魔力を感じて来てみたら、いつぞやの、ひどい顔」
不意にマリアが姿を見せた。ちなみに、メアリーは親衛隊の訓練中。
すると、ラードはチッと舌打ちして錫杖を引っ込め、
「まあ、いい。今日のところは見逃してやる。騎士会執行委員長からの伝言だ。『我々の要求が容れられるまで、断固、戦い抜く決意である』だとさ。楽しみだな」
「それでデモ行進?」
「デモだけじゃないぜ。町で集会を開いて領主の悪政を暴き、住民に支持を訴えかけるのだ」
なんとも、発想は、まさに労働組合。しかし、それにしても、
「どうしてあなたが騎士会についてるの? 騎士会も、よりによって、あなたを仲間に入れるなんて……」
するとラードは胸を反り返らせて「ガハハ」と笑い、
「しれたことよ。キサマに復讐するためさ。キサマからすべてを奪ってやる。国を奪い、友を奪い、何もかもすべて奪い取ってから、ひとり残ったキサマをムチャクチャにしてやるのだ。それに、勘違いするなよ。騎士会は、単にそのために利用しているだけだ。『バカとはさみは使いよう』だな」
ラードは騎士会執行委員長や騎士会とつながっているようだが、「誇り高き」を自任するはずの騎士団が、どうしてラードなんかと手を組むのか、結構大きい疑問。あるいは、ラードが魔法で騎士会の主要メンバーを操っているのだろうか。ただ、わたしをムチャクチャにすることが目的なら、騎士団を支配下に収める必要はないはずだ。この前にラードが帝都で魔法アカデミーを攻撃した理由もハッキリしなかったし、ラードとは、行動の一貫性や理由等々に関しては支離滅裂なキャラクターなのだいうことで納得するしかないのだろう。
「ガハハハハ! 今日は挨拶だけにしておいてやるぜ。しかし、覚悟しておけよ。そのうちに必ず、ムチャクチャにしてやるからな!」
ラードは錫杖に乗り、魔法で壁に大穴を開けて、そこから飛び去っていった。本当に、迷惑この上ないヤツ。




