騎士団の反乱か
マーチャント商会会長は、いたく立腹しているらしい。いずれ(わざわざ脅迫状まで送りつけてくるくらいだから)、マーチャント商会の軍勢がウェルシーに攻め寄せるだろう。でも、以前、やっつけたことがあるし、軍監は、性格に(大いに)問題のある元メイド長だから、心配することはないと思う。全員生け捕りにして使い捨ての労働力に転用できるなら、こちらとしては大歓迎だ。
メアリーは魔法科の授業をマリアに任せ、親衛隊の訓練に力を入れている。過去に何があったのか知らないけど、相手がマーチャント商会だけに、久々に本気モード。ただ、本人に言わせれば、「マーチャント商会がカネの力に物を言わせて何をするか分からないので、油断はできない」とのこと。
午後、執務室で紅茶を飲みながらくつろいでいると、いきなりドアが開き、
「カトリーナ様、大変です!」
例によって、ドーンが飛び込んできた。
「どうしたの? 慣用句を引用するなら、間違えないようにね」
「そうではないのです。本当に大変なことで、つまり、騎士団が反乱を起こしたのです」
「反乱?」
話によれば、国中から、完全武装の騎士が従者を引き連れて、ミーの町に集結しつつあるとのこと。騎士たちはみんな、お揃いの鉢巻をして、「要求貫徹」とか「我々の権利を守れ」とか書かれたのぼりやプラカードを立てているということだが、
「それは反乱ではなく、『デモ行進』と言うべきものじゃない?」
「デモ行進!? ああ、そうです! 正確に言えば、デモ行進、そのとおりです」
その時……
「失礼します、カトリーナ様」
ポット大臣が執務室にやって来た。大臣の後ろには、騎士会との交渉の時にいた仮面の男がいる。
「実は、この男が、『騎士会執行委員会からの伝言がある』ということなので、お連れしました」
「あっ、そう。聞くだけなら、聞いてもいいわ。ただ、どこの誰だか知らないけど、仮面をかぶったまま、わたしの前に出るなんて、どういうつもり?」
すると、仮面の男は「ガハハ」と下品な笑い声を上げ、
「本当に、この仮面をとってもいいのかな? きっと、腰を抜かすぜ」
仮面の男は、今までどこに隠し持っていたのか(不思議でならないが)、錫杖を取り出し、シャリンと床を突いた。
この男は何者か……いささか唐突な感もあるが、これだけ証拠が揃えば、誰でも正体は分かるだろう。
「あなたはラードね。ゴキブリ並みの生命力だわ。ラードなら、やっぱり、仮面は取らなくていいわよ」
すると、仮面の男は「ガハハハハ」と、一段と大きな、しかも下品な声で笑った。