藪蛇だった
元メイド長が顔を押さえながらヨロヨロと立ち上がると、メアリーは元メイド長の咽元に槍を突きつけた。
「無駄な抵抗はやめなさい。あなたに勝ち目はないわ」
しかし、元メイド長は槍をはねのけ、
「フン! 無駄な抵抗だと!? そんなことを言ってられるのは、今のうちだけだ。そのうちに、必ず、地獄で後悔させてやる!!」
すごい自信だけど、この人、そもそも何をしに来たのだろう。
「話を元に戻すようだけど、用件はなんなの? さっきから、ひとりでコントをしていたようにしか見えないけど……」
「用件? ああ、そうだな。一応、教えておく。おまえはマーチャント商会に絶縁状を送りつけたらしいが、会長はひどく立腹していて、『考え直すなら今のうちだ。さもなくば、攻め込むぞ』と。つまり、単なる脅迫さ」
そして元メイド長は、ふところから書状を取り出し、ポイと投げ捨てた。それを拾い上げて一読すると、ひどく持って回った分かりにくい表現だけど、かいつまんで言えば、今、元メイド長が言ったようなことが書いてあるようだ。
「要するに、『絶縁状を撤回して、今までのようにマーチャント商会と取引せよ』ということかしら」
「そうさ。『その要求を呑むなら、命までは取らない』と会長は言っている。しかし、わたしは違う」
「違う?」
元メイド長は箒の柄でズンと床を突き、
「そうさ。うまい具合に、わたしはウェルシー派遣軍の軍監になることができた。戦場では会長など関係ない。まずは、カトリーナだっけ、おまえを殺し、ついでにマリア、おまえも八つ裂きにしてやる。そして、この国をすべて焼き尽くし、未来永劫の不毛の地にしてやるわ!」
それだけ言うと、元メイド長は箒に乗り、窓を突き破って、どこかへ飛び去っていった。
一体、なんなんだか……
プチドラも、「ハァ」とため息をつき、
「本当に次から次へと…… それに、帝国宰相も、総合商社の許可状を出しておきながら、マーチャント商会を抑えられないなんて、あまり頼りにならないな」
「頼んだのは『許可をくれ』だけだったから、多分、宰相の言い分としては、『わしゃ、知らん。当事者間で話をつけてくれ。そこまでしてやる義務も義理はない』ということでしょ」
「なるほど…… でも、あの人が『軍監』って、どういう人選だろう?」
「さっきみたいな調子でねじ込んだんじゃないかしら。会長も勢いに押されて、ついOKしちゃったとか……」
もし、この前、わたしが直接マーチャント商会本社に出向かなければ、元メイド長には、わたしの居所は分からなかっただろう。藪蛇になってしまったようだ。




