早くも暗雲の予感
アーサー・ドーン及びG&Pブラザーズ株式会社が発足し、同時に、食糧購入価格の引下げと宝石販売価格の引上げが行われた。おかげで財政的には大いにプラス。
ポット大臣は現金なもので、最初は「マーチャント商会に何をされるか分からない」と恐れおののいていたのに、今では帳簿を眺めてニヤニヤする日々。
また、どういう脈絡なのかよく分からないが、ドーンもよく執務室にやってきて、
「実は、最近、学問に目覚めたのです」
「学問に? どうして今更、学問なんか?」
するとドーンはふところから紙片を取り出し、
「え~っと、それはですね、士、別れて三日なれば、即ち更に割腹して相討つべし……っと、あっ、あれ?」
「あんた、何を言ってるか分かってるの?」
「いや~、おかしいですね。これはまいった。これはですね、要するに、学問の環境整備が必要と、こればかりは念を押すようにと。あっ、あれれ??」
多分、財政に余裕が出てきたことをエレンがどこかで聞きつけて、教育関連予算の増額のためにドーンをダシにしたのだろう。本当に、たくましい女……
ドーンはばつが悪そうに頭をかき、
「申し訳ありません、ちょっと調子が…… 出直してまいります」
と、執務室から出ようとすると、廊下から不意に、ドタバタと争うような物音、ドカンという爆発音がして、執務室のドアがバタンと開いた。
もうもうと煙が立ち込め、その中から現れたのは、
「ようやく見つけた。絶対に許さない!」
名前は知らないが、この前にマーチャント商会本社にいた受付嬢、元グレートガーデンのメイド長だった。
「この、無礼者め!」
ドーンが殴りかかったが、意外なことに元メイド長の敵ではなく、箒ではたかれ、そのまま気を失ってしまった。その箒が元メイド長の魔法の杖のようだ。一撃でドーンを気絶させたのは、魔法の力だろう。
わたしはプチドラの口を元メイド長に向け、
「何か御用? というか、まずは、自分が何者か名乗るのがエチケットじゃない?」
「フン! わたしが何者であろうと、もはやオマエには関係がない!! なぜなら!!!」
元メイド長は両腕を大きく広げ、いきなり、わたしに飛びかかってきた。
ところが、元メイド長は、すぐに前につんのめって倒れ、床に激しく顔面を打ちつける。何かと思ったら、
「何やらよからぬ魔力の波動を感じましたもので、来てみたら…… 久しぶりですね、メイド長」
と、エルフ姉妹の妹、マリアがゆっくりと部屋に入ってきた。そのすぐ後ろにはメアリーも続く。状況からすれば、マリアかメアリーが魔法で足を引っ掛けたのだろう。




