交渉は粘り強く
ポット大臣は普段と同じような調子で立ち上がり、
「お戻りになられたのですか。なんとも、まあ、突然と言いますか…… ひょっとすると、何か事件でも?」
「別に何もないわ。帝都でうまく事が運んだので、知らせておこうと思って。マーチャント商会とは手を切って、総合商社の設立よ。これからは、少し忙しくなるかもしれないわ」
「は、はあ……」
なんとも頼りなげな返事。そういえば、総合商社の設立の件はポット大臣に話してなかったっけ?
大臣は、しばらく首をひねっていたが、そのうちに、ふと、何かを思い出したように、
「ああ、そうだ。ところで、カトリーナ様、実は、またまた面倒なことがございまして……」
「面倒なこと?」
「騎士会から、再度、交渉を求められているのです。もちろん、騎士会対応はエレン様なので、私が直接何かをするということはないのですが、騎士会のレッドポール執行委員長は、『交渉相手が不在なんて、許されない』と、激しく憤っておられるのです」
「騎士会と交渉? 交渉は、この前に決裂したはずだけど、今更、何を……」
「いえ、騎士会に言わせれば、『交渉は粘り強く、相手が倒れるまで続けるのだ』ということです」
なんだか、また、面倒なことになってきたようだ。とりあえず、詳しい話はエレンからきいてみよう。
というわけで、プチドラを抱いてカトリーナ学園に出向く。エレンの話によれば、事の経緯は、前回と同様、騎士会執行委員会が全騎士を代表して要求書を持ち込み、交渉を要求したことに始まる。その時に応対したエレンは、「交渉の余地なし。文句があるなら帝国法務院に訴えよ」と断ったそうだが、騎士会側は、「事情が変わった」と主張し、「新騎士団長の任命の撤回」を前回の要求に付け加えたとのこと。
「言ってきた時点で断ったのね。そのまま強引に押し切ってくれてもよかったのに」
「そうしたかったの。でも、ポット大臣が出てきて、『このような重要なことにつきましては、カトリーナ様の指示を仰ぎませんと』とか、余計なことを。本当に、あの大臣、役に立たないんだから」
「そうなの、なんとなく分かったわ。レッドポール執行委員長は、まず、『わたしを出せ』と言ったのでしょう。でも、あいにく不在だったから、『交渉相手が不在なんて、許されない』と怒ったのね」
ようやく話がつながった。面倒だけど、まるっきり相手にしないわけにはいかないだろう。
エレンは両腕で、わたしの両腕をしっかりとつかみ、
「ねえ、カトリーナさん、いつまでも騎士会の我儘を許していてはいけないわ」
「そうね。でも、もう一度くらい、交渉に応じることにしましょう。そこでキッチリとハッキリとダメ出しするわ」
わたしとしても、騎士団を粛清したいのは、やまやまだけど……




