寄り道
例によって、帝都を出て約10日……
ただ、今回は少しばかり、いつもと状況が違っていた。
「寄っていきましょう。帰ってから使いを出すのも面倒だから」
今はミスティアの町の上空。G&Pブラザーズのデスマッチには、首尾よく総合商社の営業許可をもらえたことを伝えなければならない。
「でも、こんな真昼間から、街中に下りて、大丈夫かな」
「構わないわ。町の住人がビックリして転んで頭を打ってくたばっても、わたしの知ったことじゃないし、万が一、衛兵が攻撃してきても、粛々と正当防衛の権利を行使するだけよ」
果して、付近の住民は、隻眼の黒龍を見ると驚いて家の中に隠れるか、逃げるかだった。その際に、おそらく、道で転んだり階段で足を滑らせたり、ケガ人が多数出ているだろう。
それはともかく、今回もG&Pブラザーズの受付で多少のトラブルはあったが、運よくデスマッチをつかまえることができた。
「うまくいったわ。これが総合商社の営業許可書」
「えっ!?」
わたしが営業許可書を示すと、デスマッチは、一瞬、呆けたように口を大きく開けた。
「ものすご~く、大変だったんだから(これはウソ)。そちらの開業準備は進んでるの?」
すると、デスマッチはすぐに気を取り直し、大袈裟に胸をドンと叩いて、
「もっ…… もちろんだ。いつでも開業できるぞ」
でも、本当だろうか。営業許可をもらえないと読んで、準備をしてなかったような感じもするが……
ともあれ、これで一応、総合商社の開業準備は整った(ことにしておこう)。もし、開業できないとしても、それはデスマッチの責任だ。こちらの義務は果しているのだから、その場合は「契約締結上の過失」として損害賠償を請求しよう(多めに吹っかけてやろう)。
こうして案件をすべて片付けると、わたしはその日のうちに、ミーの町に戻った。館の中庭に降り、子犬サイズに体を縮めたプチドラを抱き、
「ただいま」
と、玄関のドアを開けた。でも、返事は返ってこないし、誰も迎えに出てこない(この前もそうだったが)。みんな真面目に仕事に集中していると考えてよいのだろうか。ここはひとつ(何の脈絡もなく思いついただけだが)、突然顔を出して、ビックリさせてやろう。
わたしは足音を立てないよう慎重に歩き、そして、わざと大きな音を立てて、ポット大臣の事務室のドアを開けた。
「ただいま。今、戻ったわ。ポット大臣はいる?」
大臣は、机に向かい、何か一生懸命に書きものをしていたが、
「えっ? あっ、ああ、カトリーナ様、え~っと、まずは、お帰りなさいませ」
大臣は相変わらずのようだ。「わたしがいない間に適当に手を抜こう」などとは、思いも寄らないらしい。こういった愚直なところが、この人の取柄。




