絶縁状
わたしは、とても名文といえるようなものではないが、「絶縁状」をしたため、署名・捺印。これを誰かがマーチャント商会本社に届ければいい。でも、ここはひとつ、わたし自ら届けてやろう。うまくいけばマーチャント商会会長のツラも拝めるかもしれない。
幸い、マーチャント商会の本店の場所は、使用人の誰もが知っていた。というか、これは一般常識で、知らないのがおかしいようだ。それだけマーチャント商会が大企業ということだろう。ただ、わたし的には、あまり面白い話ではない。
ともあれ、わたしはプチドラを抱き、馬車に乗って商業地域に向かった。商業地域に入ってすぐのところには、マーチャント商会のシンボル「金貨の山」の看板が上がっている。そして、通りを少し進むと、シンボルマーク「金貨の山」の看板が掲げられた、ひときわ高い建物が見えた。マーチャント商会本店だろう。悪趣味かつ不愉快なこと、この上ないが、今日でマーチャント商会とも縁が切れると思って、しばらく我慢しよう。
やがて、馬車はマーチャント商会本店の前に停まった。建物自体は近くで見れば見るほど立派なもので、ミスティアG&Pブラザーズ本部とは比べるのが失礼なくらい。プチドラもドギモを抜かれたようで、あんぐりと口を開けるばかりだった。この世の中、結局、金を持っている者が強いということだろう。
「行くわよ。いくら相手が金持ちでも……」
わたしはプチドラを抱いて馬車を降りた。
「こんにちは……」
わたしは本社に入り、とりあえず挨拶。
すると、受付嬢(にしては、比較的、年長のような気もするが)が例によって、マニュアル化された受け答えで、
「いらっしゃいませ。本日は、どのような御用件で……」
ところが、次の瞬間、受付嬢は立ち上がり、時間が止まったように、わたしの顔をまじまじと見つめた。そして、いきなり両腕を伸ばし、わたしの首を絞め、
「おまえは、あの時の女! ここで会ったのは、まさに天佑!! 殺してやる!!!」
何がなんだかサッパリ分からない。しかし、大企業だけあって、危機管理はしっかりしている。すぐに守衛が駆けつけ、わたしから受付嬢を引き離した。
「おまえだけは、絶対に許さない! わたしの受けた屈辱を、おまえにも思い知らせてやる!!」
受付嬢は大声でわめきながら、どこかへ連れ去られていった。でも、あの女、一体、何者?
「申し訳ございません。実は、少し前の話になりますが、有り体に申し上げますと『降格人事』が行われまして……」
守衛の話によれば、あの受付嬢は、もともとマーチャント商会会長の別荘地「グレートガーデン」でそれなりの地位にあったが、そこで、「超絶大失態あるいは前代未聞の不祥事」を起こし、本社の受付譲に格下げになったとか。そう言われてみれば、あの人、マリアを連れ出したときのメイド長だったような……