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ザ☆旅行記Ⅵ ウェルシーにおける動乱記  作者: 小宮登志子
第1章 騎士会の要求書
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騎士会

 わたしは要求書に目を通した。表紙には騎士会執行委員長のサインがあり、本文が数ページ程度と、それほどの分量はない。

「ところで、今更基本的なことをきくかもしれないけど、この『騎士会』って、なんなの?」

 わたしがポット大臣に顔を向けると、大臣は額の汗をぬぐいながら、

「それはつまり、騎士たちの互助会のような組織でして……」

 騎士会とは、もともと、騎士団を構成する騎士たちが相互扶助等のために結成したものであり、非常に長い歴史と伝統を有するとのこと。組織としては、最高意思決定機関として全騎士が参加する総会があり、日常の業務については、総会選出の執行委員によって構成された執行委員会がこれを行っている。ただし、総会の最高意思決定機関は建前であり、実質的には、執行委員会(その中でも、特に、執行委員長)が実質的な最高指導者となっている。騎士会が全騎士を代表し、福利厚生や労働条件の向上を求めて要求書を提出することは、よくあることらしい。なお、騎士会執行委員長が騎士団長に横滑りするのが慣例だとか。

「なんだか頭が痛くなってきたわ」

 わたしは、ふと、つぶやいた。まさか、中世風のファンタジーな世界で労働組合との交渉みたいなことまでしなければならないとは……

「それで、今までは、誰が騎士会に対応してたの?」

 わたしがポット大臣を見ると、急に大臣の顔は蒼ざめ、ブルブルと震えだした。一体、なんなんだ?


 エレンがポット大臣の耳元でささやく。

「正直に言っちゃいなさいよ。今なら酌量の余地はあるかもしれないわ」

 すると、大臣は「ひぃ~」と悲鳴を上げ、いきなりわたしの前に土下座して、

「お許し下さい、カトリーナ様。実は今まで、私が自分の判断で行ってまいりました」

 大臣は涙声になって「罪を告白」した。先々代は交渉事が得意でなかったことから、騎士会対応はポット大臣に一任されていたという。つまり、先々代と騎士会の契約なるものも、ポット大臣の力作(作文)とのこと。ポット大臣は一貫して騎士会との融和に努め、また、騎士会も、対決するのではなく協調路線を採ったことから、要するに、ウェルシー伯と騎士会の間に「あまり適切ではない関係」が構築されていったらしい。

「今回は気がついたからよかったわ」

 と、エレンは冷ややかな目でポット大臣を見下ろした。先日、教育関係費の増額を求めてポット大臣を訪ねたとき、「国内情勢も落ち着き、宝石産業の再生も進んでいる。この際、古くからの約束を復活させよう」という「談合」の現場を押さえ、ドーンを動かしてポット大臣を脅したらしい。その結果、騎士会対応はエレンが行うことになり、また、騎士会も協調路線から対決路線に転換し、この日、要求書を持参したとのこと。

「カトリーナ様、どうか、お許しを」

 なるほど、ポット大臣の態度がおかしかった理由が分かった。本来なら死罪と言いたいところだけど、まあ、いいか。

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