ブラックスライムの巣
やがて、わたしたちは、教室程度の大きさのホールに出た。ここでは二つの排水溝が一つに交わっていて、その部分は小型のプール状になっている。ガイウスはその中をのぞきこみ、
「いたいた。ブラックスライムがうじゃうじゃと」
見ると、黒っぽい水面には……というか、その黒っぽいものそのものがブラックスライム。プールの表面の大部分をブラックスライムが覆っている。
「それじゃ、始めましょう」
クラウディアはひしゃくを持ち、表面のブラックスライムをすくい取り、甕に注ぎ込んだ。もう少しドロッとしたものを想像していたが、粘性はそれほどではないようだ。他のダーク・エルフたちも、同様にして、甕をブラックスライムで満たしていく。難しい作業ではなさそうだ。わたしも「ブラックスライムすくいに挑戦」と思ったけど、残念ながら、ひしゃくがない。
クラウディアは、「まあまあまあ」とわたしをおさえ、
「カトリーナさん、ここは、わたしたちがしますから、これとは別に……え~と、あの~、とりあえず、休憩していてください。簡単そうに見えますが、油断していると、意外と危ないこともあって、すくうにもコツがいるのです」
わたしは戦力外らしい。仕方がないので、「少しばかり下水道の探索を」と思って、第一歩を踏み出そうとすると、
「手持ち無沙汰だからといって、散歩はダメだから。下水道で迷ったら、それこそ……」
プチドラは、小さな腕を交差させ「絶対にダメ」のポーズ。
「そうね。やっぱり、やめましょ」
方向音痴のわたしのことだから、散歩に出たら必ず迷うはず。そうなると、命にかかわりそうだ。
しばらくして……
突然、ダーク・エルフは作業をやめ、足元にひしゃくを置いた。
「どうやら、湧いてきたようだぞ!」
と、ガイウス。わたしには何が何やら分からないが……
しばらくすると、キィッキィッキィッという高い声が響き渡り、わたしたちが入ってきたのとは別の通路から、背の低い、トカゲのような二足歩行の生き物が、次々と、ホールに踊りこんできた。
「これがトログロダイトなのね」
なんとなく学問的興味でもって、初めて遭遇した生き物に見入っていると……
「それじゃ、斉射」
背後からガイウスの声が聞こえた。その声を合図に、魔法の矢(魔法のエネルギーをロケット状にしたもので、それなりのダメージを与える)が雨あられのように降り注ぐ。そして、一瞬のうちに、トログロダイトの一団は全滅してしまった。なんともすごい。本気で親衛隊にスカウトしたいくらい。
「これで、食材がそろったわけだ」
ガイウスは、トログロダイトの尻尾を何本か切り取って言った。




