ツンドラ候と宴会を
プチドラは不思議そうな顔でわたしを見上げた。わたしは周囲に誰もいないのを確かめ、
「もしも、ツンドラ候が、アート公でもサムストック公でも誰でもいいけど、招かれた晩餐会をすっぽかし、わたしの屋敷で帝国宰相と宴会を楽しんでいたとしたら、どうなるかしら?」
「少なくとも相手方はカンカンだろうし、政治的にも微妙なことになりそうだよ。でも、そんな宴会を開いてどうするの?」
「ツンドラ候と帝国宰相に手打ちしてもらうのよ。帝国宰相に異存があるはずないし、ツンドラ候も、あのとおりの単細胞だから、適当におだて上げればOKしてくれるでしょ」
「なるほど。ただ、『帝都に動乱を』という当初の目論見からすれば…… これは、どういうことになるのかな」
「わたしが帝国宰相の立場なら、ツンドラ候が味方についてくれている間に反対派を粛清しちゃう。反対派も黙ってやられるわけにいかないので反撃するでしょう。そうなれば戦争よ。帝国宰相失脚後の後継者争いを待つよりも早いわ。まあ、実際にどうなるかは分からないけどね」
「うまくいってくれればいいけど……」
「決まりね。宴会の準備をしましょう。ツンドラ候向けにゲテモンを用意しないとね」
わたしはプチドラを抱き、馬車を飛ばして大急ぎで屋敷に戻った。そして執事を呼び、
「あなたは元々ツンドラ候のところで働いてたでしょ」
「左様でございますが、それが何か?」
「ツンドラ候を招いて宴会を開こうと思うのよ。そこで……」
すると、執事の顔はみるみる蒼ざめ、
「あ、あの…… それはいかがなものかと…… ご存知のことと思いますが、ツンドラ候に酔っ払って大暴れされれば、この屋敷は完全に破壊されてしまいます。故に、そればかりは、いかばかりかと!?」
執事には、ツンドラ候向けゲテモン料理の材料を教えてもらいたかっただけなのだが、話がうまく通じない、と言うか、ツンドラ候の名前を聞いてパニックに陥っているようだ。わたしは、「今回は単なるドンチャン騒ぎではなく、政治的な談合も兼ねているから大丈夫」と何度も念を押し、とりあえず自室に戻った。
「困ったわ。あの執事、今回は使えなさそうだし、まさか『駐在武官』にゲテモン好きの悪趣味な人がいるとは思えないし……」
「ガイウスかクラウディアにきいてみればいいよ。あの二人なら、何か知ってると思うよ。」
「そうかしら? エルフにゲテモンって、イメージが合わないけど……」
とはいえ、他に良い案があるわけでもなく……
わたしは作業服(しつこいようだけどメイド服)に着替えてプチドラを抱き、誰にも見つからないよう慎重に「開かずの間」に向かった。そして、プチドラの魔法で「開かずの間」のドアを開け、さらに、「開かずの間」の床に設けられたドアから地下への隠し通路を通って、ダーク・エルフの隠し部屋に。




